【前編】独自の男性育児休暇制度「チャイルドケア休暇」導入から1年。取得者に聞く、子育てのリアルと会社の未来像
年代:30代後半
家族構成:妻、子ども(8か月)
出産日前日からチャイルドケア休暇を17日間取得。その後40日間の育児休業を経て仕事に復帰。
年代:30代前半
家族構成:妻、子ども(4歳、11か月)
第二子誕生からチャイルドケア休暇を20日間取得。有給休暇とあわせて2か月程休業。
年代:40代前半
家族構成:妻、子ども(11か月)
妻と子どもが里帰り出産から自宅に戻る生後2か月のタイミングに合わせて、チャイルドケア休暇を20日間取得。
本座談会における進行役。
デジタルホールディングスグループは、男性の育児休業取得促進を目的に、2022年4月より最短10日から最長20日まで取得可能な特別休暇制度「チャイルドケア休暇」をスタートしました(詳細はこちらから)。
導入後の取得者は20名を超え、2022年度の男性育休取得率は83.3%まで上昇しました。育休前面談などのサポート体制の構築や、全管理職に対し男性育休に関する研修を必須参加とするなど、理解促進と環境づくりにも力を注いでいます。
今回は、本制度を利用した男性社員3名の体験談を聞く座談会を実施。取得の効果や自らに起きた意識の変化、さらには会社の現状から考えられる課題と解決に向けた提言まで、思いのままに語ってもらいました。前後編の2回に分けてお届けします。
座談会スタートにあたり、進行役の菅原から「チャイルドケア休暇」設立の経緯について、改めて説明がありました。
菅原 当社グループのDE&I領域において、現在、もっとも注力する取り組みの一つに男性育休があります。男性社員に育児に関連する休暇や休業を取得するうえでの阻害要因を社内調査したところ、一つ目に「周囲への遠慮」、二つ目に「経済的な理由」が挙がりました。これを受け、当社グループでは、管理職への研修を必須としたり、周囲への理解を促す取り組みを実施したりと、給与を全額保証する独自の男性育児休暇「チャイルドケア休暇」を制定し、休暇取得を任意ではなく必須としました。「DE&Iとは本来、選択の自由を確保するものではないか」という声も挙がったのですが、男性育休を取得しづらい社会の現状を打破するため必須取得でスタートをしました。
制度スタートから1年半が経ちましたが、社員の皆さんからは感謝の声、戸惑いの声など、さまざまなフィードバックが届いています。男性社員の育児参加によって、グループ社員一人ひとりの働きやすい環境にとどまらず、働きがいを育むためにも、この制度をどんどんアップデートしていきたいと思っています。
知識も情報もゼロの出産前 「チャイルドケア休暇」が安心材料に
ここからは本編がスタート。最初の話題は、取得にあたっての不安や葛藤についてです。三人は、「出産にあたっての準備や段取りの不確かさに振り回された」と口を揃えます。
志田 私は、子どもが誕生するとはどういうことなのか全然分かっていなかったため、育休を取得するか否かの検討が進みませんでした。ネットで検索するものの、よくわかんない、みたいな。そんな感じだったため、「チャイルドケア休暇」の取得が必須で良かったです。任意だったら取得しなかったかもしれません。
我が家は計画分娩だったため、出産日だけ有給休暇を取得したのですが、その日に生まれなくて。看護師さんから夕方になって「初産だと半分くらい生まれないんですよ」と言われ、出産は全然計画的にはいかないことが分かりました。そのため、関係先に「すみません。明日も休みます」と、慌ててお願いすることになりました。
高木 私は、第二子のときは育休を取得しようと決めていました。ただ、志田さん同様、深い知識はなく、「チャイルドケア休暇」があったからこそ、どうすればよいのか知れた部分がありました。育児休業と育児休暇の違いもその一つで、取得の仕方も迷いました。
もう一つ迷ったのは、いつから休むのか。2か月間取得することは決めていたものの、「どのタイミングから取得すればいいんだろう」と。というのは、我が家は切迫早産で、出産が1、2か月早まるかもしれないと言われていたため、早くからタイミングを見計らう必要がありました。実際は、計画分娩日の2日前に産むことになったのですが、生まれるその日から休もうと思っても、生まれる日が分からないと取得日が決まらないので悶々としていましたね。生まれる1週間前から、いつ休んでも良い状態をつくること、それを周囲にも知っておいてもらうことが必要だと、いま振り返って感じています。
長谷川 私は、2021年10月の入社でしたが、妻の妊娠が分かったのは2022年の6月ごろでした。
会社が男性育休を推奨していることは知っていました。本部長の早田さんも前回の座談会をはじめ、仕事をしながら育児に積極的にかかわっていることを頻繫に発信していたため、私が育休を取得したいと申し出た際も、会社は「ノー」と言わないだろうと思っていました。ただ、入社から1年足らずということもあり、どこから情報にアクセスしたら良いのかも分からなくて。安定期前でしたが、まずはマネージャーに話して、自分の気持ちを落ち着けて制度を理解していきました。
私も、お二人と同じように国のウェブサイトを見て混乱してしまったり、いつ生まれるか分からないのにどうやって申請するのだろうと困っていたりしました。
その点、「チャイルドケア休暇」は、生まれた後は自分のタイミングで休めるので、余計なことを考えずに済みました。また、DE&Iの皆さまから、チャイルドケア休暇と国の育休を組み合わせると、こういう休暇パターンがあるといった説明会が非常にわかりやすく、すぐに「チャイルドケア休暇」と「育休」の組み合わせにしよう、という判断がしやすかったです。考えることが減ったぶん、「クライアントに説明しよう」「社内引き継ぎを一生懸命やろう」などと仕事に集中できました。
菅原 DE&I推進がミッションである私たちでも、刻々と変わる国の制度をキャッチアップし続けることに大変さを感じていますから、国の制度と会社の制度を理解して自分でデザインすることはかなり難しいことだと想像します。「チャイルドケア休暇」によって強制的に休む環境に置かれることが安心材料になる点は、新たな気づきになりました。
新生児がやってきた! パパたちの奮闘と戦略
話題は育休中の過ごし方に移ります。新生児を迎えてからの生活は、まさに三人三様だったようで、家庭ごとの工夫やルールづくりなど、独自の関わりかたが垣間見られるたくさんのエピソードが飛び出します。
志田 赤ちゃんって生後3か月までがとくに大変で。置くと泣くし、座ると泣くし、動かないと泣くじゃないですか。なので、何が一番大事になるかというと夫婦の睡眠です。我が家では、どちらかが抱っこしているうちに、どちらかがちょっと睡眠を取っていました。日中の区分がほとんどなくなるため、夫婦ともに育休を取得しないときついなって思いましたね。こんな状態になるなんて出産前は想像もつかなかったですし。そのため、育休を取る・取らないの深刻度はその立場になってみないと計れないことが問題というか、ジレンマを生みやすいように思います。ですから、「育休中の過ごし方は?」という問いに対する私の答えは、「赤ちゃんを抱っこしてウォーキング・デッド(※)していました」ですね。本当にずっとウロウロしていたので。
(※)ウォーキング・デッド:ベストセラーとなったアメリカンコミック。原作タイトルは『The Walking Dead』。ゾンビがはびこるアメリカを舞台に、生存者が安住の地を求めて旅に出る物語。2010年にアメリカでドラマ化。現在までに11シーズンが放送されている。
菅原 (笑)。志田さんは、生後2か月目からの子育て参加だったんですよね。
志田 そうなんです。これも『パパあるある』かもしれないけれど、里帰り出産なので週末に顔を見に行くんです。私としては育児参加しているつもりですが、妻は7日間フルで育児しているため、土日だけ来て、「何すればいい?」「お風呂はどうするの?」みたいなのが良くなかったようで…。妻には大きな負債をつくる結果に。生まれたときから一緒にいたほうが、夫婦間の育児スキルレベルの差は小さかったように思います。
菅原 高木さんはいかがでしたか?
高木 我が家は4歳の長女の下に第二子となる長男が生まれたのですが、妻が出産で入院していた5日間は、長女にとっては初めてのママがいない生活で、精神的にすごく不安定になってしまいました。退院初日は、妻と長男、私と長女に分かれて寝たのですが、出産後の母体は交通事故と同じくらいのダメージを受けているという話もありますから、そんな状態で3時間おきに授乳しなければならないとなると、相当の辛さを伴うことが分かりました。その結果、我が家は夜9時に妻と長女が一緒に寝て、長男は私が朝まで面倒を見ることにしました。私が3時間おきに起きてミルクを飲ませて、寝るまで抱っこするというサイクルを2か月続けたんです。育休中のため、翌日の仕事を気にしなくてよかったし、妻もまとまった睡眠が取れるからか順調に回復し、産後1か月目からは気晴らしに買い物に行ってもらったり、長女と出かけたりしてもらいました。妻からしても「夜中に新生児のお世話ができるのだから、日中も私に任せて大丈夫だろう」という安心感があったと思います。
菅原 新生児のうちにパートナーの信頼や安心感を得られた高木さんの行動は素晴らしいですね。続いて、長谷川さんお願いします。
長谷川 振り返ってみると、育休期間中を仕事風に例えるなら「育児プロジェクト」だったんじゃないか、と思っています。クライアントは息子で、授乳時など、どうしても息子と一番向き合う時間の多い妻がフロントマン、自分はプロジェクトマネジャー兼フロントマンの立ち位置です。私は、妻が息子と向き合うために必要なこと、妻のためにできることは全部やろうと家事全般を担ったのに加え、妻が疲れているときには交代するなど、妻が育児のこと以外は考えることなく快適に生活できるように、とにかく動きました。
仕事に復帰した直後は、6時半には絶対に仕事を終わらせて、すぐ育児に戻るようなスタンスでしたが、子どもも3か月が過ぎるころには生活リズムが出来上がってきたため、9時に寝たあとは仕事を再開するように。育休中に家族の生活リズムを組み立てたことによって、復帰後もそのまま走れている感じがします。
菅原 長谷川さんは、普段はリモートワークですか?
長谷川 基本はそうですが、4月は週1でお客さまのオフィスに常駐していたため、義母に自宅に来てもらい妻が一人にならないようにしていました。いまは「19時ぐらいまでなら一人で大丈夫」と言ってくれるため、お客さまとのアポや出社予定などどうしても夜遅くなる日だけ義母に頼っています。
三名の語る、取得前のリアルな葛藤、取得中の戸惑いは、子育て中の人なら誰もが経験することかもしれません。しかし、そこから生まれた試行錯誤や導いた解決策を、生き生きとお話しされる三名のお姿から、人生の充実が伝わってきました。
後編は、育休中に起きた価値観の変化、そこから生まれた思いをどのように会社に還元していくのか、三名それぞれの立場から言及していきます。