withNOUCHI 情熱オーナー対談 Episode3 成長志向企業が直面する広告投資へのジレンマのBNPLで解消

2023.08.10
株式会社デジタルホールディングス
代表取締役社長 グループCEO
野内 敦 Atsushi Nouchi
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1967年生まれ。東京理科大学工学部を卒業後、91年に森ビル入社。96年にオプト(現デジタルホールディングス)に入社。99年に取締役に就任。2006年からはCOO(最高執行責任者)、その後数々の戦略子会社の設立・運営に携わる。13年より投資育成事業の責任者として陣頭指揮を執り、出資先への経営指導やビジネスモデル開発において、多くのベンチャー企業のIPO(新規株式公開)を支援。15年よりBonds Investment Groupの代表取締役に就任し、現在も兼務。20年3月にデジタルホールディングス代表取締役社長 グループCEO(最高経営責任者)に就任。

株式会社バンカブル
代表取締役社長
髙瀬 大輔 Daisuke Takase
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事業会社のマーケターを経験後、株式会社オプト(現 デジタルホールディングス)へ入社。
同グループのインハウス支援コンサルティング会社 株式会社ハートラス(旧 エスワンオーインタラクティブ)代表を経て、2021年4月より株式会社バンカブルの代表取締役社長に就任。
“新たな金融のカタチを創り出す”をミッションに掲げ、広告費の分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」と、本年7月、新たにローンチした仕入費の分割・後払いサービス「STOCK YELL(ストックエール)」を展開中。

情熱オーナー対談とは
代表取締役社長 グループCEOの野内敦が、デジタルホールディングスグループで活躍する情熱オーナー※1と対談し、事業の内容や取り組みへの想いをお伝えする企画です。一人ひとりが日々何を考え、どのような姿勢で事業に向き合っているのか、その真相に迫ります。

※1 デジタルホールディングスグループでは、バリュー「5BEATS」の体現者を情熱オーナーと呼んでいます。
URL:https://digital-holdings.co.jp/philosophy/value
 

急成長するバンカブルの主力サービス「AD YELL」とは

野内:今回はバンカブルの髙瀬社長に来ていただきました。現在、バンカブルは事業が急成長しています。先ずは、バンカブルが手掛けている「AD YELL(アドエール)」について、具体的にどのような事業を展開していて、どのような手応えを感じているのかを教えてください。

髙瀬:「AD YELL」は、広告費の分割・後払い(BNPL※2)サービスです。主に、eコマース事業を営み広告を出稿する企業に向けて展開しています。2021年の4月に事業を開始し、2021年の10月にベータ版をローンチしました。そこからさらにPoC※3を重ね、その半年後となる2022年の5月、正式に提供をはじめ、現在1年数ヶ月が経過しています。思っていた以上にお客様から選んでいただいており、立ち上がりとしては好感触を得ています。

野内:事業としては、今どの程度のサイズになっていますか。

髙瀬:GMV(流通取引総額)と言われる、「AD YELL」経由で取引されている広告費の総額は、ベータ版の期間を含め、事業をスタートしてから今までで約140億円まで伸びており(編注:2023年6月時点で160億円を突破)、お客様も100社を超えています。

野内:それは広告予算や市場全体から考えるとどの程度の比率ですか。

髙瀬:市場自体は3兆円を超えていると思います。そのなかで、私たちは中堅・中小規模の企業の方々を対象としています。そこから逆算すると、市場規模は1.5兆円ほどあると想定しています。さらにそのなかでもマーケットエントリーとしては、eコマース事業者やD2C事業者からスタートしており、そこは約6,000億円の市場です。

野内:なるほど、6,000億円の市場のうち、バンカブルは既に数パーセントを占めているという計算になりますね。この市場はどれほどまで広がると思いますか。

髙瀬:広告費の伸びは、広告市場の伸びとイコールになると私たちは認識しております。市場自体は年率では105%前後で伸びているため、そのような成長が続いていく市場だと思っています。

野内:今、ご利用いただいているお客様は、どのような企業で、どのようなことに満足されていますか。また、逆にまだご利用いただいていないお客様は、どのような企業でしょうか。

髙瀬:先ず、ご利用いただいているお客様は、自社でECを営んでいる企業です。例えば、水産業の課題に着目し、市場に出回らないけれど調理をしたら美味しいお魚を、調理パッケージを作ってサブスクリプションで展開しているようなD2C企業などがあります。資金調達を重ね、これから事業グロースをしていく、投資ラウンドシリーズAやシリーズB※4のスタートアップの企業が該当すると考えています。ご利用いただいている理由としては、さまざまな手立てで資金を調達されて、色々なものに投資をし、事業を伸ばしていきますが、こと広告費においては、先に広告費を投じて、顧客が商品やサービスを購入した後から、サブスクリプションでどんどん収益を上げていくため、投資効果を得られるまでの期間が長いという側面があります。ただ、顧客数の増加は事業の鍵です。そこで、キャッシュフローをどうするかが問題になります。先に広告費を投じれば投じるほど事業が伸びることはわかっているけれども、お財布事情からすると限定的にしか投資ができない。そういう時に、私たちのサービスをご利用いただき、広告費を後払いの分割にしていただいて、キャッシュフローの圧迫を軽減する。結果的には、先行投資をかけるという意図で使い、喜んでいただいています。大多数のお客様がこのようなケースです。逆に、例えば、主力事業を実店舗として運営されていて、しかも広告投資がそれほど重要ではない、もしくは耐久財でリターンが非常に読みづらいなどの事業体では、今はあまりご利用いただけておらず、私たちとしてもお客様の中心となる層ではないと思っています。

野内:先ずはネット広告を多く出稿される企業が対象になるということですね。スタートアップでは、未上場でもエクイティファイナンス※5で資金調達をしている企業が多いと思います。エクイティファイナンスでの資金調達の環境がすごく順調な時期には、「AD YELL」はそれほど刺さらないのでしょうか。

髙瀬:そうではないと思います。お客様のなかには、エクイティファイナンスで資金調達をされている企業もいらっしゃれば、これからするというタイミングの企業もあります。どちらにせよ、エクイティファイナンスやデットファイナンス※6で調達して得た資金をどう活用するかが問題になります。当然、調達した資金の全てを広告費に使用するわけではありません。商品の開発や採用、システムの開発など、投資の対象がさまざまあるなかで、その内のひとつに広告費があると捉えているお客様が多いです。限られたなかで、いかに事業を伸ばしていくのかを計画して資金調達をされています。その使用用途として、いかに効率よく活用するか、もしくは100の広告費があっても、150を投じられればもっと事業を伸ばすことができるとわかっているけれども、実際に投資できる金額は限定的であるというシーンで活用されているケースが多いと思います。

野内:「AD YELL」は、従来は100しか広告を出稿することができなかった、あるいは出稿するつもりがなかった企業が、150や200まで出稿することを可能にするサービスということですね。

髙瀬:はい、そうです。

※2 BNPL(Buy Now, Pay Later):    後払い式の決済手段を指します。信用調査が簡易なため、欧米・若年層を中心に市場の広がりを見せています。今後、さらなる市場規模の拡大が予測されており、BtoB向けサービスの広がりも注目を集めています。

※3 PoC(Proof of Concept):    「概念実証」を指します。新しい概念やアイデアなどの実証を目的に、システムの試作開発の前段階における検証やデモンストレーションを行うことです。

※4 投資家がスタートアップに対して投資を行うフェーズを指します。シード、シリーズA~Cなどの区分があり、一般的にはシードは事業やサービスの検討段階、シリーズAは事業やサービスを開始した直後の企業、シリーズBはビジネスが軌道に乗り始めた企業、シリーズCは黒字経営が安定化し始めた企業を指します。

※5 エクイティファイナンス:株式発行による資金調達、増資などを指します。

※6 デットファイナンス:借入による資金調達、銀行など金融機関からの融資を指します。

「AD YELL」参入の背景

野内:日本では珍しい事業で、参入も難しかったと思いますが、そもそもどうしてこの事業が私たちのグループでスタートしているのでしょうか。その辺りの背景を話していただきたいです。

髙瀬:2021年の4月から事業を開始していますが、実際はその1年以上前から準備していました。当時、デジタルホールディングスとして、広告事業やデジタルシフト事業があるなかで、次の成長のドライバーをどのようにつくっていこうかという議論がありました。さまざまな検証や、軸の検討、協議のなかで、自社のアセットを活用しながら、パーパスにある「新しい価値」を創造して、該当する産業の変革を起こすことのできる事業の根幹、種をつくろうとなった時に、「ファイナンスを掛け合わせる」というのが起点として生まれました。それが、「AD YELL」起案の初めのきっかけだと思っています。

野内:ネット広告やデジタルマーケティングを手掛けている私たちが、身近にある広告費というものにファイナンスというスパイスをかけると、やり方が変わる。

髙瀬:そうです。その後、形にしていこうと準備が始まりました。さまざま検証を行い、このビジネススキームであれば成立するのではないかという光明が見えてきました。ただ、もうひとつ壁がありました。この事業は広告費を決済する手段に入っていくことになります。対象となる中小企業はクレジットカード決済を採用している企業が多くいらっしゃいます。また、一定のバックファイナンスをどうつけていくかなど、下支えのスキームをつくる必要がありました。これを実現するには、私たちのグループのみでは難しいかもしれない。構想とストラテジーの設計だけではなかなか立ち上がらないだろうと考えました。そこで、外部の金融機関やパートナー探しがスタートして、協議を重ね、結果的には一年以上準備をして今の形になったというのが、グループ視点での立ち上がりの背景です。

野内:時間をかけて準備をし、事業をつくっている印象ですが、逆に言うと、それが決まり走り出したら急速に伸びてきましたね。

髙瀬:そうですね。

「AD YELL」をさらに成長させるために越えなければならない3つの壁

野内:事業の成長はすごく喜ばしいのですが、事業が伸びるとさまざまな問題も起きると思います。事業規模が拡大するなかで、直近で感じている、「AD YELL」がもう一段上のステージに行くための壁は何でしょうか。

髙瀬:重要度や粒度に差はあると思いますが、3つあります。ひとつ目は、嬉しいことに引き合いをたくさんいただいて、伸びてきているが故に、それを事業としてしっかりとまわしていくための体制の強化が必須になります。当然、ストレッチをしながら進めますが、金融色が強い事業では、リスクの大きさや影響度も非常に大きく、体制強化が必須です。ふたつ目は、多くの方にサービスを届けなければ、そもそも事業は伸びないという意味で、弊社視点でのマーケティング活動の強化です。3つ目は、事業会社バンカブルとしてのファイナンスです。レバレッジをどうかけるかですね。分割・後払いサービスの流れは、審査をして問題がないかを確認した後、取引先の投じる広告費を弊社が立て替えるところからスタートします。立て替えをするため、GMVが伸びれば伸びるほど、膨大な立て替え資金が必要です。今、グループのなかで資金を投じていただいていますが、ここからもっと事業を伸ばしていこうと思うと、いかにこのファイナンスのレバレッジをかけていくのかが重要です。体制とマーケティングの両輪をまわせたとしても、資金がちゃんとまわっていかなければ、事業グロースについていけなくなってしまう。ここはすごく大きな課題だと思っています。

野内:なるほど。やりたいことが非常に明確ですね。圧倒的に強くなっていくには、何が決め手になりますか。

髙瀬:「AD YELL」としては2つあると思っています。私たちのサービスを使っていただくと、今までは投資しきれなかった広告費を投じることができるようになり、支払いが分散されるため、キャッシュフローの圧迫を軽減できるという効用はあります。しかし、根本的には、いかに簡単に、いかに早くサービスをご利用いただけるかという、時間を買っていただいている側面があるのではないかと思っています。即日でサービスを提供できる状態にはまだなっていませんが、現時点で、最短で3営業日、平均で見ても非常に短い期間で提供できるようになってきています。このスピード感は強みになっていくと思います。ふたつ目は、広告費ですから、担保価値がないものに対してサービスを提供しています。これは、今後さらに、私たちのグループのアセットを活かした強みになっていくと思っています。広告費に対してどれだけリターンがあるかを早期に判別し、「これは問題ない」と事実として容認し、結果的に審査を早期に通していく。このリターンの予測モデルを精緻化できている、もしくは今後さらに精緻化していくというアセットがあることが、将来競合が出てきた時の強みの源泉になるのではないかと思っています。

「AD YELL」が起こすIX(産業変革)

野内:今までとは違う話題になりますが、私たちはグループ全体で、「産業変革」というキーワードをパーパスのなかに含めています。産業変革は、産業構造や、業界そのもののビジネスモデル、ルールを変えていくことが、収益力を上げ、産業が元気になることに繋がるということだと考えています。「AD YELL」が今やっていることは、広告産業と金融業の組み合わせによって、どのようなことを変えようとしていますか。今までのタブーがタブーではなくなるとすると、それは何でしょうか。

髙瀬:まさに、バンカブルは広告と金融の掛け合わせで事業を推進していて、双方それぞれのルールの変革や、新しい価値を創造することに向き合っています。広告に関しては、広告費の支払い方を再定義していると思っています。通常であれば、クレジットカードで決済するか、オプトを含めた広告代理店などのパートナーに受発注をし、請求書が来て支払いをする。支払いサイトも決まっています。このルールは今後も変わらないと思いつつ、私たちは、その支払いの仕方を再定義しています。最初に支払う必要がなく、先行投資をかけられる。そして、その費用は後々、分割で支払う。このような支払い方の再定義は、ひとつのルールチェンジであり、新しいルールを作っていくことだと思っています。

野内:確かにそうですよね。今は無いことですから。

髙瀬:金融の側面で言うと、先ほどもあったように、広告費に対して審査をしていますが、これは一般的                な金融の視点から見るとなかなか難しいことだと思っています。担保価値がないと言われているものに特化した形で一定のファイナンスをつける。これは既存の金融機関もしくは金融業界では、なかなかやり切れていないことではないかと思います。これをやりきることは、金融の側面において新しい審査の在り方をつくり、ファイナンスの対象を変えていく、もしくは追加していくことに繋がると考えています。この2つが、ルールメイキングや産業変革に繋がるのではないかと考えています。

髙瀬が描くバンカブルの将来イメージ

野内:今、事業を始めてから実質的には一年だと思いますが、今年、それから来年、さらにはもっと先の話をすると、「AD YELL」をはじめさまざまな事業をスタートすると思いますが、バンカブルはどのように成長していくイメージですか。

髙瀬:先ずは、市場規模から考えてもまだまだポテンシャルがあるため、「AD YELL」に圧倒的に注力していきます。これは多分変わらないと思います。とはいえ、ビジョンや理念からのバックキャストの視点で考えると、グループでは、「新しい価値創造を通じて産業変革を起こし、社会課題を解決する。」と掲げている。それに紐づいてバンカブルは、「誰もがチャレンジ出来る世界を。」というビジョンを持ち、その手段として、ミッションには「新たな金融のカタチを創る。」と掲げています。それを実現しようと考えると、BNPLという仕組みのみで、科目と業種の面積を広げていき事業成長したとしても、誰もがチャレンジ出来る世界になっているのだろうかと思ってしまいます。産業が変革されていて、社会の課題を解決できているのかを考えると、程遠いのではないかと。そのため、新しいファイナンスの仕組みというものを、BNPLにとらわれずにつくっていかなければならないと思っています。バンカブルは、複数の金融サービスを持った事業体になっていく必要があると思います。

野内:サポートする資金ボリュームなどを数字で示すことができればわかりやすいと思いますが、いかがでしょうか。

髙瀬:2兆円というラインがあります。事業会社内の金融事業として先行している大手企業を何社か見ていくなかで、2兆円ほどの基準までいかないと、世の中の誰しもにご利用いただき、そのジャンルにおいて、認知だけではなく何かしらの課題を解決できている規模になっていないと感じています。

野内:すごく大きな話です。それがいつになるかということがポイントですね。

髙瀬:その通りです。

野内:最後に、改めてバンカブルが目指す世界観を皆様に力強く説明していただいて終了にしたいと思います。よろしくお願いします。

髙瀬:今回お話をさせていただいた通り、デジタルホールディングスとして、IX(IndustrialTransformation®=産業変革)というコンセプトや事業ポートフォリオのなかで、社会課題の解決に向け事業をやっております。「広告・マーケティング×ファイナンス」の力を用いて、先ずは「AD YELL」というサービスを起点にしながら、さまざまなラインナップを増やしていき、早期に2兆円というラインを飛び越えたいと思います。社会課題を解決するというパーパスの手前にある、バンカブルの、誰もがチャレンジ出来る世界を創る、新たな金融のカタチを創る、という目標を達成できるよう、本気で取り組んでいます。引き続き、応援していただければ幸いです。

野内:すごくワクワクするお話ばかりでした。必ずしも全てが思い通りにいく訳ではないかもしれませんが、是非目標に向かって進んでいただきたいです。本日はどうもありがとうございました。

髙瀬:ありがとうございました。