withNOUCHI 情熱オーナー対談 Episode1 コネクトムの変遷と事業の背景

2023.03.16
株式会社デジタルホールディングス
代表取締役社長 グループCEO
野内 敦 Atsushi Nouchi
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1967年生まれ。東京理科大学工学部を卒業後、91年に森ビル入社。96年にオプト(現デジタルホールディングス)に入社。99年に取締役に就任。2006年からはCOO(最高執行責任者)、その後数々の戦略子会社の設立・運営に携わる。13年より投資育成事業の責任者として陣頭指揮を執り、出資先への経営指導やビジネスモデル開発において、多くのベンチャー企業のIPO(新規株式公開)を支援。15年よりBonds Investment Groupの代表取締役に就任し、現在も兼務。20年3月にデジタルホールディングス代表取締役社長 グループCEO(最高経営責任者)に就任。

株式会社コネクトム
代表取締役 兼 CEO
奥田 知広 Tomohiro Okuda
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ニューヨーク州立大学F.I.T卒業後、株式会社リクルートHRマーケティング(現リクルート・ジョブス)新卒入社、大手リテール業界を担当。その後、外資系旅行メディアにて航空会社、外資ホテルチェーン、観光局等を担当。Japan Entry Corporation社(本社US、ボストン)ではコンサルティングディレクターとして海外IT/Techベンチャー企業の日本市場参入コンサル兼事業開発に従事。 B2B SaaS(ID/サブスクリプション/CRM/課金)を展開するMPP Global Solutions社(本社:英国、マンチェスター)にて日本初代カントリーマネージャー就任。その後、Facebook Japan株式会社を経て株式会社デジタルホールディングスに入社。
2021年1月1日付で株式会社コネクトム、代表取締役社長に就任(現任)。

情熱オーナー対談とは

代表取締役社長 グループCEOの野内敦がデジタルホールディングスグループで活躍する情熱オーナー(※1)と対談し、事業の内容や取り組みへの想いをお伝えする企画です。一人ひとりが日々何を考え、どのような姿勢で事業に向き合っているのか、その真相に迫ります。

(※1)情熱オーナーとは、デジタルホールディングスグループのバリュー「5BEATS」の体現者を指す。
URL:https://digital-holdings.co.jp/philosophy/value

奥田が考える、当時の現状を打破するコネクトムの勝ち筋と提供価値

野内:今回は、約2年前にコネクトムの社長に就任した奥田さんに、就任時の想いについて伺いたいと思います。コネクトムの社長は奥田さんで2人目です。社長が交代し、事業も以前とは全く異なる内容になりました。その変遷も含めて、どういう想いで、この事業を見ているのかをお話いただけますか。

奥田:コネクトムは創業して10年弱が経ちます。元々は小売の在庫連動型広告を扱っていました。エンドユーザーがお店に行かないと商品があるのかないのかがわからないという不便な状況を、テクノロジーを使って解決しようとしたのです。ウェブで見たものがお店にあるかないかがわかるという、O2O(※2)の走りですね。O2OやOMO(※3)の黎明期から、そのような事業をやっていました。そこから7〜 8年が経って、競合の大企業もこの領域に乗り込んできました。その結果、大手の中でも超大手と言われる企業はO2Oが上手くいっていますが、3番手や4番手、あるいはそれ以下の企業は、O2OやOMOがなかなかうまくいかないという状況になっていました。うまくいくためには、経営陣のコミットや資金力、データ収集力がなければいけません。さらに、アプリを使ってエンドユーザーをお店まで誘導する必要があります。その中で、コネクトムはかなりもがいているように見えていました。

(※2)Online to Offlineの略。ユーザーに向けてオンライン上で情報を発信し、オフラインに誘導するマーケティング手法のこと。
(※3)Online Merges with Offlineの略。オンラインとオフラインを区別することなく、両者がシームレスに統合されたマーケティング手法のこと。

野内:それが、社長に就任する前の状況ですね。

奥田:そうです。社長就任前にコネクトムをサポートしながら、非常に魅力的な領域ではあるけれども、競合も色々と進化しているなかで、広告事業として次の一手や未来を描くには難しい状態にあるなと感じていました。デジタルホールディングスの事業統括の立場から、勝ち筋がどこにあるのかをずっと探っていた気がします。

野内:「こうすればコネクトムは変わるんじゃないか」というのを奥田さんの頭のなかで描いていて、社長をやって事業も変えようと考えたのですね?

奥田:はい。

野内:なるほど。その時の仮説と今の景色はどうでしょうか。社長に就任して約2年が経ちますが、見え方がどう変わったのかを教えていただきたいです。

奥田:想定していた事業ピボット案自体は、概ね間違っていないと思っています。ただ、ユーザーを広げられる「独自の商材」は持っていないため、想定していたスピード感や単価感を実現するのは楽ではないなと、実際にやってみて気づくことができました。

野内:なるほど、商材の問題ですね。そして、今はどちらかというとコンテンツをマネジメントする事業だと思います。リアルタイムでオンライン上に表示するコンテンツを全店舗一律で管理するという、かつてとは似て非なるものを提供していますね。

奥田:はい、そうですね。

コネクトムが進む、広告ではない領域「コンテンツマネジメント」とは

野内:奥田さんが社長に就任して、情報がリアルタイムに更新される必要性を感じた背景や、このようにピボットするべきだと考えた理由を教えていただきたいです。

奥田:超大手企業や中小企業などの顧客ターゲットと、私たちが持つ商材を考えた時に、どこが私たちとしてやりたい領域で、どこなら勝てるのかを探っていました。その中で、元々は広告のターゲティング用に作った「トストア」というプロダクトが、MEOという波に合致するのではないかと思ったのです。MEOというのは「Map Engine Optimization」の略で、SEO(※4)のマップバージョンです。Googleも仕様を変えて「マップ経由でユーザーが検索をする」という分野に波がきていたので、そこに注力しようと考えて、2019〜2020年くらいからプロダクトを粛々と作りました。そして、マーケットが非常に成長し、競合も参入していて、お客さまも困っていたことから、これを拡大すれば、スケールできると考えました。5,000〜1万店舗という大手企業だけじゃなく、100店舗や数百店舗の企業でも、店舗情報をリアルタイムに出すのは難しいです。Googleもその仕様になっていないので、情報を一元管理するサービスは上手くいくかもしれないと思いました。

(※4)Search Engine Optimizationの略。GoogleやYahoo!などの検索エンジンで検索結果を上位に表示するために改善をすること。

野内:今のお話を伺っていると、何かのキーワードで検索をした時に、今まではマップを経由せずにどこかのサイトに行っていたのが、マップの方が便利だとなることで、マップ自体がこれから大きな集客のチャネルになると考えたということですか。

奥田:まさにその通りです。

野内:今は、トストアを導入することで生まれた集客数などの数字は、あまり私たちに開示していないと思うのですが、あえて開示していないのでしょうか?

奥田:ダイレクトにお店に誘導した人数を把握するのは、テクノロジー的にもコスト的にも負担が大きくてなかなかできないですね。実際に何名が店舗に来られて、その中で何名が購買されたのかは把握しにくいです。

野内:でも、直接的には把握しづらいけれど、例えば、MEOサービスを導入する前と後で検索結果に引っかかる確率やその後のコンテンツの精度に関して、明らかに差が出ますよね。だからこそ、お客様にお金を支払っていただくことができる。そうなると、コンテンツを管理する人の作業が楽になるとか、情報に間違いが出ないとかだけではなく、MEOをすることで、店舗に潜在的な顧客がこれだけいらっしゃって、実際にはこれだけの方が店舗に訪問されているだろうというような計算ができると、私たちが提供している価値もわかりやすくなると思います。

奥田:そうですね。

お客様の課題を明らかにして改善を重ねていく、新たなアプローチ

野内:トストアは「店舗にこれだけ集客が見込める」などのアプローチをしてみたらどうかと思うのですが、奥田さんとしてはどう考えていますか。

奥田:実は、まさに今それをやっていて、「今あなたたちは、こんな状態にあります」という診断を出すというアプローチがあります。

野内:どのような内容なんですか?

奥田:例えば、牛丼屋さんの店舗が建設された時に「競合店舗より下に表示されていますよ」という検索順位の話や「間違った情報がこれくらい出ていますよ」というものです。私たちは、コストと来店予想などの収益機会の両方を算出しています。店舗情報が正しく載っていなければ、その整備に人が何百回と店舗情報を書き換える必要があり、非常に手間がかかります。これを私たちのサービスでは一元管理することができます。例えば、店舗情報として掲載されている閉店時間が、実際の閉店時間よりも1時間遅い場合、その間の時間に来たお客様からは「開いていない」というクレームが来てしまいます。逆も然りで、「開いていないと書いてあったから行かなかった」という損失も生まれてしまいます。こういうところから、まずは情報整備の大事さをしっかりと理解いただきながら、そこに介在する人のコストをつまびらかに出します。時給などから計算し、「いくらくらい下げられます」というのを出すのです。その後に、Googleマップで実際に検索された数や、店舗にかかってきた電話の数、Webサイトへの遷移の数などのデータを取得できるので、ビフォーアフターを比較して、情報を整備するだけでこれだけ数字が上がっているとお伝えします。この数字が、昨対比で2倍になるお客様も結構いらっしゃいます。

野内:すごいですね。

奥田:Googleマップでは、「これは自分の店です」とGoogleに承認してもらう必要があります。Googleのアルゴリズムにも色々な要素があるので、店舗情報を入力したのか、投稿をちゃんと行っているか、口コミに返信しているかなどを私たちが把握する必要があります。ただ、この数字を上げる作業は、半年〜1年ほどでやり切れてしまいます。

野内:でも、やり続けないとまた落ちてしまいますよね。

奥田:そうです。だからこそ、やり続ける必要はあります。ただ、「数字が上がっているのはわかる。しかし、何名が実際にお店に来て購入しているんだ」というと、いわゆるデジタルマーケティングとは異なり、お店に来てからの情報は取れないので、デジタルマーケティングに長けているお客様ほど効果に対して半信半疑になってしまいます。

お客様の売上に貢献する仕組みを作ることが、結果、働く人への分配を増やす

野内:従来の私たちのグループの主力事業は、デジタルマーケティングでした。だから、「店舗の売上を上げます」や「集客を増やします」というのはMEOでもSEOでもできるなかで、色々な手法を組み合わせて店舗の売上を上げることはできると考えています。グループ全体でもデジタル広告やマーケティングに携わっている人数も多く、ノウハウがあることを考えると、かなり分があると思うのですが、そこは、どのように見えていますか。

奥田:そうですね、私たちが対象としているお客様は100〜400店舗の方々です。

野内:例えば業種でいうと、どのような企業が多いのでしょうか。

奥田:小売や飲食、サービス業などさまざまです。もともと、コネクトムは小売向けのサービスを扱っていたので、その領域で恐らく400〜500社ほどいらっしゃると思います。MEOを手がけるようになってから、いわゆるサービス業にも進出しました。前述の特徴もあり、居酒屋やカフェなど飲食サービス業のお客様はほとんどいらっしゃいませんでした。2021年の事業ピボット以降、そのようなお客様と接点を持ち、今は半分ほどを占めています。ただ、小売とは異なり、マーケティング予算をあまりお持ちではありません。

野内:そうですよね。今お話を聞いていて、そう思いました。集客コストは、もうほとんどその用途が決まっていますよね。

奥田:はい。そのように、業種によって実態は異なっています。元々、オプトにOIC(※5)があったのですが、結局、広告に予算を捻出されるのは超大手企業になってしまいます。私たちのお客様のように、100〜400店舗の企業を考えると、該当する予算が無いケースが多かったです。超大手企業向けで、対象とする領域が少し異なっていたということもあり、広告を提案するという意味では、2020年のコネクトムの事業となかなかかみ合わないところがありました。今では、広告を必要とされるお客様には広告商材を提案する一方、コネクトムとしては、運用面は担当していません。

(※5)OMNICHANNEL INNOVATION CENTERの略で、2020年1月に設立されたオプトの仮想組織。

野内:良いと思います。店舗の売上を上げようとか集客を増やそうとか、売上や利益が上がると、結果的に働く人への分配も増えていくというのは一貫していると思います。一方で、リスクモニタリングとか情報を可視化して誤りが無いようにしようというのは、どうしても、ある程度経営層や本部で確保されている一定の予算内における話だという気がします。今の奥田さんのお話は、超大手企業で、株価や企業価値に影響するような企業には適していると思いますが、店舗事業者はとても裾野が広く、感覚としては「評判よりもまずは売上を上げたい」という方が多いのではないかと思います。なので、大手企業向けのサービスと、そうじゃないところをもう少し整理すると、ますます良くなるのではないかと。可能性がものすごくあると思うが故に、コネクトムがこれからどう市場で価値を提供するのかいうことは、奥田さんのお話を聞いていて、とても大事なことだと感じました。そのあたりを、経営陣で是非ディスカッションしてもらえれば良いと思います。

奥田:そうですね。

働く人の価値を上げながら、産業のルールも変えていく

野内:奥田さんが目指すゴールや、この領域でどういう世界観で動いているか、今後どういう事業展望を持っているかを、改めてお話いただきたいと思います。奥田さんにはどういう世界が見えているんでしょうか。

奥田:実は、僕はこの有店舗という領域にずっと命をかけてきた訳ではありません。しかし、リクルート時代には大手飲食チェーン店の採用をやっていました。そこで、数百人の店長さんにお会いしていると、幸せそうな方が本当に少なかったんです。僕と話している時に泣く方もいらっしゃいました。そういう経緯もあり、僕がコネクトムの代表に就任した時に、デジタルホールディングスのパーパスに込められた想いである「産業従事者の価値を上げる」という点が非常にマッチしたんです。実際にこの2年間で現場へ行っていると、店長さんが自殺されたという状況が未だにあります。これは、産業の再定義が必要だと感じました。僕は海外にいた経験も長いのですが、海外の店員さんは楽しそうに働いているんです。

野内:日本は違う?

奥田:違います。海外にはチップもあったりしますから。そこで、この産業に必要な定義をもう一度考えると、ITの力を使うのかマーケティングの力を使うのかに関わらず、安い・休めない・誇れないという三重苦を打開すれば、きっと産業が元に戻ると思うんです。暗い部分を見てきたからこそ、そこで働く人たちを笑顔にしたいと思っています。そのような想いに、デジタルホールディングスのパーパスが噛み合って「これしかない」と思いました。例えば、家電量販店に行って、店員さんからものすごい量の知識をいただいたうえで、結局ネットで購入すると、店員さんは報われません。そこにチップとして500円支払うから15分だけでも接客して欲しいなど、接客業に価値が出るような仕組みや事業は、このデジタルホールディングスでやるべきだと思っています。

野内:とても共感できます。そのうえで、あえて聞きたいのですが、働く人の価値を上げるというのは目指すべきゴールで、どの産業もやる必要があると思います。そこには、山の登り方は2つあると考えています。今、奥田さんが仰ったようなチップも含めて、ダイレクトに市場から働く人にお金が流れていく考え方と、もう1つは、産業のルールを変えることで産業の収益性を変えて労働分配率を上げていくという考え方です。この2つがあった上で、我々は元々デジタルマーケティングから企業の売上・利益を上げようとしているので後者の方かなと。その結果として、例えば、今のデジタル系の企業は報酬が一定高いと思います。これは、結局デジタルマーケティングで成功しているからだと思うんです。早くからそういう売上拡大の手法を手に入れているから、そういう産業に従事する人はどんどん報酬が高くなり、分配が増えていく。

一方で、デジタル化が遅れている旧態依然とした産業においては、売上拡大や分配の増加が起きていない。それは、産業のルール自体を変えられていないということだと思っています。そのうえで、奥田さんが描いている、例えばチップをダイレクトに渡せば受け取った人たちが喜ぶということももちろんあるけれど、果たしてそれは企業を経営している人たちが是とするのかなと。むしろ企業の利益や店舗の売上がすごく上がって、店舗もどんどん出店して、比例するように労働機会も増えて、働く人たちの単価も上がるというのが、産業を盛り上げるうえでは、とても大事だと思います。両方あるとは思うのですが、あえてこういう意地悪な感想と質問をさせていただくと、奥田さんはどっちを見ていますか。

奥田:正直に言うと、手探りだと思っています。両方あり得ると思いながら、コネクトムはまさに今どちらに行くかを検討中です。ただ、今を考えると、大きな城を建てるためには城壁が必要ですから、先ほどのMEO事業でしっかりと収益を上げられる企業になりながら、その次に企業や店舗側の情報の可視化と収益の改善は、パラレルで考えなければなりません。まだどれも実現できておらず収益性も証明できていないので、今年はまず収益性を証明したうえで、どちらをやっていくのかを見極める年だと思っていました。

野内:飲食は別かもしれませんが、リアルな店舗を構えている企業は、大体オンラインでもビジネスをやっているんですか。

奥田:やっているところとやっていないところがあります。予約システムをオンラインにしてアプリやLINEを活用しているところは結構いらっしゃいます。しかし、飲食も含めて、Eコマースでしっかりと収益をあげられているかというと、本当にまちまちだと思います。

野内:では、リアル店舗の売上・利益を上げる仕組みを作り上げることが、この産業が変わる大きなきっかけになるのでしょうか。

奥田:そうですね。とはいえ、今のお客様の単価が2倍になるとか、お店に来る方が2倍になるかというと、きっとそんなことはなくて、可能性としてはインバウンドくらいだと思います。なので、例えばEコマースのようなリアル店舗以外の手法を考える必要があると思います。

野内:後は、店舗の出店単価を下げるとか運営コストを下げるとか、そういうことになるのかもしれないですね。

奥田:他には、いわゆる「バーチャル店舗」ですね。そのような手法で新たな価値を提供していくというのは必須だと思います。

野内:なるほど、わかりました。本日はコネクトムの奥田社長をお招きしてお話を伺いました。どうもありがとうございました。

奥田:ありがとうございました。