選択肢を増やせば、未来は広がる。 新しい金融サービスで誰もが挑戦できる社会を目指して。
不動産デベロッパー、リノベーション会社にて営業・マーケティング業務に携わった後、2008年よりオプトにてメディアプランニング、広告運用に従事。その後、トレーディングデスク、インハウスコンサルティング事業を手掛ける株式会社ハートラスの代表取締役、取締役CSMOを歴任。現在は『新たな金融のカタチを創り出す』をミッションに掲げる株式会社バンカブルの代表取締役を務め、金融関連サービス事業をゼロから立ち上げ展開中。世の中のEC事業者、広告代理店のチャレンジを応援する、広告費の分割・後払いサービスを提供している。
※本文は取材当時の情報です。
「新たな金融のカタチを創る」というミッションの元、中小・中堅EC事業者に広告費の後払い(BNPL※)サービスを提供する株式会社バンカブル。デジタルホールディングス発の金融関連サービスに取り組む代表の高瀬は、これまでは異なる分野で活躍していました。キャリアは描くというよりも、振り返ると後ろにあるものだと語る高瀬がバンカブルの立ち上げに至った背景とは。
※Buy Now, Pay Laterの略称。後払い式の決済手段を指す。信用調査が簡易なため、欧米・若年層を中心に市場の広がりを見せている。
新しい金融サービスに想定外の反響
バンカブルは「お金」という側面で中小・ベンチャー企業、特にEC事業者の方々に価値を提供したいと思っています。私自身、これまで広告事業のオプト、インハウス支援事業のハートラスを通じて、多くの広告・マーケティング活動の推進をお手伝いしてきました。その中でも中小・ベンチャー企業の方々は、大手企業とは違い、限られたアセット(ヒト・モノ・カネ)をどう使うか。常に悩みながら事業を推進されていました。「今、このタイミングで資金を投じたい」というシーンがあっても、既存の金融機関の仕組みでは、希望通りの融資が受けられないケースもありますし、決算書、事業計画書は勿論のこと、多くの書類を用意し、面談を繰り返す。致し方ないことではありますが、膨大な時間と手間を要してしまっています。特に広告宣伝費、販売促進費のみの場合、担保価値が無いとみなされ、融資を受けることはほぼ難しい状況です。結果として、チャレンジする機会を失ってしまうこともあります。
私たちが目指すのはこの機会損失を限りなく無くし、誰もがチャレンジできる世界を創ることです。これまで多くの議論を重ね、結果として広告費を分割、後払いできるサービスを提供することとなりました。
2021年4月より本格的に事業の立ち上げ、サービス開発をスタートし、9月からテスト運用を開始しましたが、まず2つの出来事に驚かされました。1つ目は、想定以上にお問い合わせをいただいたこと。2つ目はご希望される広告費の額が想定よりも大きかったことです。あるベンチャー企業のお客様には「こんなサービスを待っていたよ」と言っていただき、私たちのサービスが必要とされている手応えを実感できたことが、本当に嬉しかったですね。
転職でオプトへ。広告を配信した先にある未来を描く
新卒で不動産会社に入社。営業マンから社会人をスタートし、その後、社内異動で広告担当となります。2社目にリノベーション業界におけるスタートアップの創業に参画しました。まさに0→1(ゼロイチ)でしたので、マーケターとして非常に幅広く、多くの経験をさせてもらった後、もっとマーケティングの腕を磨きたいと思い、2008年にオプトに入社しました。
オプトに入社してからは、不動産業界を担当とする部署のメディアコンサルティングチームに配属なりました。入社当時は、現在のような運用型広告ではなくいわゆる枠売り広告で、純広告やタイアップ広告などの特定の広告枠をプランニング、提案をし、受注後に買い付けをする業務に従事していました。
ただ、意識は広告の販売よりも、圧倒的にプランニングの方に向いていたと思います。
2社目のマーケター時代に、商品開発やプライシングを考え抜き、サービスを磨きつつ、ユーザー体験をいかに豊かにしていくかを重要視しており、友好的な関係構築のためのコミュニティ作りなどに注力していたんです。
そのためペイド広告は一手段でしかないという考えがありました。
「Yahoo!のバナー枠、優先的に持ってきました!」みたいな提案もあったのですが、私の気持ちとしては、ただの枠を売る提案はできればしたくなかった。
なぜ、今このタイミングで広告を実施する必要があるのか。モデルルームを作り、販売開始時期から、最後の売り切る時期までを整理し、どの時期にはどのような考えのお客様がいるのか、同じ商圏内の競合デベロッパーはどんなモデルルームをいくつ提供していているのか、お客様だけでなく競合の情報も積極的に情報収集をして、お客様よりもお客様のことを考え抜く。広告を配信する目的や、どうしたらより成果に貢献ができるのかを常に考えていました。
数値上のシミュレーションは出しつつも、広告を配信した先にある未来を提示することのほうに時間をかけていましたし、そんな仕事に熱狂していたと思います。
クライアントが口に出してコメントいただく悩みや問題よりも、より本質的な問題意識は何なのか、どのような課題設定が適切なのか、を自然と意識していたのかもしれません。
その後、不動産・人材教育・エンタメなど多岐に渡る業界を担当するチーム、部門のマネージャーとしてメンバーを引っ張る立場になったのですが、お客様への向き合い方は変わらなかったです。どんな業界であっても、自分自身がお客様の立場となり、広告を発注する側の気持ちで広告の提案をしていましたし、周りのメンバーにもその重要性を伝えていました。
グループ企業の代表として組織再建に尽力
その後、運用型広告のトレーディングデスク事業であるグループ会社のハートラス(当時:エスワンオーインタラクティブ)の社外取締役を経て、取締役に就任後、代表取締役社長にとなりました。
私が代表になってからが、まさに変革のタイミングで、事業は伸びて利益は出ているのに、離職率は一時40%と厳しい状況でした。当時は本当に苦しかったです。どんなに利益を出している会社でも、人が全て。そう考えた私は、その後、理念を変えて、社名も変更することにしたんです。まずは「心に響く喜びを。」という理念が決まりました。お客様はもちろん、パートナー、社員、そしてその家族など、ステークホルダーに対して、想像を越えるような価値を提供して、喜びを提供したいという思いを込めました。そして、理念と社名にズレが出てしまうので、心(ハート)を大切にする集団(クラス)という意味で、ハートラスという社名にしました。
その他、必要と思えることはどんどん変えていきましたし、その甲斐あってか、徐々に組織の状態が良くなっていったことを今でもハッキリと覚えています。何よりも、一緒に走ってくれたメンバーには今でも感謝しきれません。私一人では決してやりきれなかったと思います。また、私自身も、経営者として非常に得るものが多かったです。
それまではロジックを突き詰めた意思決定や戦略が私の拠り所でしたが、「これが正しい!」と信じられる意思の力を重要視するようになりましたし、ある種、非論理的な意思決定をするシーンも増えているように思います。
当たり前に、答えが無い中で、物事を決めることも担う役割の一つです。決して理屈だけで人は動きませんし、何よりも自分自身を信じ切れていなければ、どこかで軸がぶれてしまいます。戦略や数字、その他論理的なあれやこれやという側面よりも、もっとウェットな部分。出来うる限りロジックとパッション双方を持ち合わせ、かつ表現するよう努めています。
誰もが公平に挑戦できる社会の実現を目指して
その後、ハートラスは順調に成長していましたが、デジタルホールディングスとしても社名、経営方針を一新し、新しい目標に進む中で、グループ内の組織再編により、ハートラスをクローズすることとなりました。その後、デジタルホールディングスグループのCEOである野内から「次、どうしたい?」と聞かれたんです。それに対して、私は「ありません」と答えました。それは意志がないという意味ではありません。私はこのグループが大好きで、「デジタルを活用して新しい価値を提供する」というグループが進む方向性に腹落ちをしています。だからこそ、私がどこにいたら最短でグループの進む方向に貢献できるか、経営陣の考えを聞かせて欲しいと依頼したんです。
そんなやりとりの結果、出てきたのが現バンカブルの事業構想の話でした。
私自身非常に意義が大きい事業だと感じましたし、2社目にベンチャー企業でマーケターをやっていたこともあり、資金面で苦慮した経験から、自分事化できたんです。
実際に会社をスタートしてみて、これまで経験してきた分野とは異なる業界ではあるものの、「お金」にまつわる分野の支援を通じ、人生をかけて素晴らしい商品やサービスを提供している方々を応援すること、誰もが公平に挑戦できる社会の実現を目指すことは素晴らしいことである、と心から共感していますし今も新しい熱狂の渦のど真ん中にいます。
選択肢がないからチャレンジできないような人や企業に対して、いかに選択肢を増やせるか。最初は広告費という切り口に特化していますが、ゆくゆくは広げていければと考えています。やや大袈裟な話ではありますが、そうやって挑戦する人や企業が増えれば社会はもっと良くなっていく、ペイフォワード的な考え方を私は本気で信じています。
逆算でない、目の前の機会に全力を繰り返した先にあるキャリア
不動産、広告、コンサル、金融と業種の違いもそうですし、紆余曲折の多い経歴ですが、個人的にキャリアを考えるときに大事にしていることがいくつかあります。
まずは、迷ったら難しい方を選ぶこと。これは転職した時もオプトからグループ会社の役員になった時も、異業種のバンカブルでチャレンジを始めたことも同じです。
2つ目は先々の未来を描かなくても良いということです。もちろん、3年・5年先から逆算して自分のキャリアを決める力は素晴らしいですし、それができる人をとても尊敬します。しかし、これだけ不確実性が高く外部環境の変化が大きい中で未来を描くのは難しいと思っています。未来が描けなくても目の前にあるものを200%の気持ちで掴んでやり切る、それを繰り返したあとで振り返った時に後ろにあるものがキャリアなのではないかと考えています。
余談ですが、2社目の企業を離れる時、「卒業生が活躍していることを証明します」と豪語していたので、本当にそうなったかどうかをプレゼンさせて欲しいと、3年おきに当時の社長にプレゼンさせてもらっていました。この3年何をやってきて何ができたのか振り返ることで、自分の整理にもなっていますし、そうやって振り返ったときに見えるキャリアを常に見つめ、自身の指針にしています。