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マーケターの暗黙知はどうしたら言語化できる?OJTや評価制度にも反映する人材育成の挑戦

2020.03.09
株式会社オプト
HRDC 部長
黒沢 槙平 Kurosawa Shinpei
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2010年4月オプト新卒入社。リスティング広告のオペレーターを経て、リスティングを含む運用型広告のコンサルタントとして人材業界を担当。同領域において2013年にチームマネージャーに、2016年に部長に昇格。2019年4月より、現在のHRDC部長に。2010年下期全社表彰新人賞。2014年上期全社表彰MVP。2018年上期全社表彰ベストマネジメント賞。

人の成長はそのまま組織の成長につながる

※本文は取材当時の情報です。

ライター岡本:本日はオプトの人材育成の取り組みについてお伺いさせてください。黒沢さんはどのようにオプトでのキャリアを歩んでこられたのでしょうか。

 

黒沢:2010年に新卒でオプトに入社して、リスティング広告のオペレーターを経験し、その後リスティングを含む運用型広告のコンサルタントとして人材業界を担当。2013年にチームマネージャーに、2016年に部長に昇格しました。

自分のキャリアを振り返ると、基本的には現場の実務経験、OJTを通じて自分が成長してきた実感があります。ネット広告市場も成長期真っ盛りで、体系化されたナレッジもないような時期でした。

もちろん先に入社して経験値の高い先輩に付いてもらって、イチから教えていただくこともたくさんありましたが、自分で色々調べたり、実際にやってみたりということにも固執していました。自分の気質的には、そのほうがモチベーションが上がるというか。 

 

ライター岡本:その環境で困ることはなかったのでしょうか?

 

黒沢:僕はベンチャー企業に入りたくてオプトに入社したので、体系化された育成環境を求めていませんでした。成長は自分でするもの、自己責任という感覚でした。

オプトの裁量が大きくて、自分でどんどん決められる社風を入社前から感じており、入社してからもそれを実感。新卒入社なので、入社するまで仕事の経験はありませんでしたが、想像以上に自由に幅広い経験をさせてもらいました。

2010年の入社当時の会社の規模は500~600人。デジタルマーケティングという変化のスピードが激しい業界で、会社のルールや仕組みも整っていませんでした。能動的に動かざるをえない環境だったというのも、自分の動き方には影響していると思います。

 

ライター岡本:特別、育成の仕組みが整っていない中で育ってきた黒沢さんが人材育成に関心を持たれたのはなぜだったのでしょう。

 

黒沢:育成に関心を持ったのは、チームを任されるようになってからです。チームマネージャーになり、若手を指導する立場になったけれど、どうしたらうまくいくのかがわからない。業務で成果をあげ活躍できる人をどうしたら増やしていけるのかを考えるようになりました。

自分がどうマネジメントしたらいいかを知りたいというより、どうしたらオプトがより成長していけるかを考えたんです。広告代理業の事業で競争に勝ち続けていくためには、人や組織が競争優位性になる。どうしたらオプトが成長していけるかを考える中で、人材育成に関心を持ちました。 

 

ライター岡本:オプトにおいて、人材育成の課題はどのようなものだったのでしょうか。

 

黒沢:新人育成はどの業界でも難しいですが、オプトのようなデジタル専業の広告代理店も、どの代理店もほぼ同じ課題感を持っています。課題は大きく分けて2つ。1つは、育成の方法が体系化されておらず、育成の方法が属人化していること。もう1つは、教えるリソースがないことですね。

オプトは人が好きな人が多いので、育成への熱量が高いんです。自主的に人に教える社風がある。一方で、やり方にはスタンダードがない状態でした。手取り足取り教える人もいるし、放任主義の人もいる。自分が放任主義で育ったので、それが正解だと思っていたのですが、それも合う人と合わない人がいる。

教育は自分が受けた経験を再生産するもの。だから、社内で色んな流派があったんです。組織として考えると、非効率な面もあるし、相性もある。人材育成の方法が体系化されていないことで、機会損失になっていると考えるようになりました。 

 

ライター岡本:それでHR領域への異動を希望して?

 

黒沢:そうですね。関心が高まったこともありますが、キャリアの幅を広げるうえでより経営に近い、コーポレートの仕事を経験してみたかったというのもあります。コーポレートの仕事の中で特に興味があったのが、HRかファイナンス。オプトは人で勝つのが一番の勝ち筋だと思っていたので、HRが経営課題として一番テコが効く大きい部分だと思って、HRDCにコミットすることにしました。 

 

「コンピテンシー」で暗黙知を言語化・定量化する

ライター岡本:HRDCではどのような活動をされているのでしょうか。

 

黒沢:HRDCは、株式会社オプトホールディングと株式会社オプト(以下、オプト)で立ち上げたデジタルマーケターの開発研究機関です。まずは、オプト内から人材育成に関するプログラムを集約し、デジタルマーケティングの活用能力を、体系的かつ、実践的に習得できるように整備し始めています。整備したものを、ナレッジマネジメントシステムとしてオプトグループ全体へと展開し、人材育成の速度向上や効率化の実現に挑戦しています。

具体的には、教材を含む研修プログラム開発ならびに講師の育成、シミュレーションゲーム等で実務を体験できるトレーニング環境の整備、デジタルマーケターに特化した育成の計測指標の整備などを行っています。 

 

ライター岡本:直近のHRDCではどのような取組みを?

 

黒沢:社員が自分の持つスキルやノウハウを社内研修・勉強会として提供し、他の社員から参加者を募集することができるプラットフォーム「OPT HRDCラーニングポータル」の運営と、社内で成果を出している社員の行動や思考様式を言語化する「コンピテンシー」を作成し、事業側と一体になりOJTプログラム内にて活用しています。 

 

ライター岡本:ラーニングポータルはどのようなものなのでしょうか?

 

黒沢:ラーニングポータルは、社員が自分の持つスキルやノウハウを社内研修・勉強会として提供し、他の社員から参加者を募集することができます。また、参加希望者が多数いる講座については、研修の様子を動画としてポータルサイト上にアーカイブし、社員がいつでも自由に閲覧できる機能も有しています。変化が早いデジタルマーケティングの世界で成果を出すためには、学び続ける姿勢が欠かせません。社員同士でナレッジを相互に教え合う機会を最大化することで、社内の学びの文化形成にもつながると考えて作成しました。

オプトはもともと社内研修や勉強会が盛んで。調べてみると年間で約200回以上の社内研修が行われていたんです。これまでは研修が部署ごとに行われており、アーカイブもされていませんでした。せっかくのナレッジが社内の資産として共有・蓄積されていないのはもったいない。そこで研修を提供する側と参加する側をマッチングできるようにしたんです。

2018年6月の公開から、1年7ヶ月が経ち、過去公開された講座は、およそ250プログラム、受講回数は6700回以上。これは社員1人あたり8回近く受講している計算になります。(2019年12月現在) 

 

ライター岡本:ラーニングポータルによって、ナレッジが社内に共有されやすい環境を作り、いつでも学習可能になったのですね。コンピテンシーはどのようなものなのでしょう。

 

黒沢:コンピテンシーでは、デジタルマーケター12職種ごとに成果を出している社員の行動や思考様式を言語化してまとめています。例えば、運用型広告のコンサルタントのコンピテンシーには、「広告効果を最大化することに執着する」「顧客の目標数字の達成に責任を持つ」などがあります。 

 

ライター岡本:コンピテンシーはなかなか言語化も難しいものかと思いますが、どんなことから取り組んだのでしょうか。

 

黒沢:半年ほどかけて、外部のコンサルタントにも協力いただいて作成しました。各職種のエース社員と呼ばれている人3~4人にインタビューをして、「それは卓越な行動だ」というものを形式知化していったんです。どのように仕事をしてきたのかのエピソードを聞き、行動の背景や前提となった知識などを深掘りしました。

一人ひとりのトレーナーの中で暗黙知化されていたものを形式知化したことでも価値はあると思っていますが、実際の育成場面でより使いやすいように、さらにブレイクダウンした職種ごとの育成目標も定義し、新人のOJTプログラム内で運用しています。

例えば、運用型広告のコンサルタントであれば、「広告のパフォーマンスを正確に把握する」という初期の育成目標に対し、「運用型広告における指標の計算」「広告実績データの加工」「データから示唆を読み取る分析」など、具体的に割り振るタスクと達成すべき基準が定められています。 

 

ライター岡本:「できているか/いないか」を明確に判断できる形に落とし込んで育成に活用しているのですね。

 

黒沢:はい。これらの育成目標は入社何ヶ月時点で達成した方がよいのか、どのような仕事を経験すれば目標達成に向けたコンピテンシーの開発が進むのかといった具体例まで落として記述しています。

人材育成の難しさの1つに、教える側も教えられる側も「何から手をつけていいかわからない」「能力が身についているかわからない」といった点が挙げられます。そこで、育成目標を明確に定義し、トレーナーとメンバーで定期的に面談をしてもらい、進捗を振り返ります。

すると、「今何を注力して学んでいるのか」「どこまで身についたのか」が明確に言語化でき、具体的にコンピテンシーを開発していく育成が可能になるんです。実務を通して、現場に必要なコンピテンシーを効率的に身につけられます。 

 

ライター岡本:コンピテンシーで目指す姿が言語化され、育成目標を達成するための具体的な実務、どの順番でコンピテンシーを身に着けていくかのタイムラインがまとまり、それを面談で振り返る。そうすると、OJTもはかどりそうですね。

 

黒沢:オプトのOJTの期間は8ヶ月間あるのですが、8ヶ月間を通じてコンピテンシーをどういう順序で開発していってほしいというルートも作成したんです。そのルートの中で、それぞれの育成の目標を採点可能な形にして定量化していきました。定量化までできると、実務でも使えるようになったんです。定量化とモニタリングの実行支援ができたのは組織全体の人材育成においても、インパクトが大きいと考えています。 

 

ライター岡本:コンピテンシーという存在自体は他社でも作成されていると思いますが、オプトならではの特徴はあるのでしょうか。

 

黒沢:コンピテンシーの文章を読み解くと、かなりオプトらしさがあります。あえて、意図的に残しました。文章を一般化しすぎてしまうと、自分ごと化しづらい。なので、オプトらしさを全面に生々しく残した文章にしています。

例えば、運用型広告のコンサルタントにおけるコンピテンシーは、オプトの全社的な行動規範やビジョン、理念と照らし合わせても整合性があります。「逆境やプレッシャーをバネにして仕事を楽しむ」など、オプトらしさがにじむ文章にしているんです。

コンピテンシーは「こうしなければならない」と思考や行動を縛るような「ルール」ではないんです。それよりも、あるべき姿により近づくために心に留めておくべき「指針」と考えた方がよいかもしれません。

例えば、「広告効果を最大化することに執着する」「顧客の目標数字の達成に責任を持つ」という顧客志向のコンピテンシーは、突き詰めていけばオプトのビジョン「自分の未来と、個客の未来の、重なるところへ。」に通じています。つまり、コンピテンシーを常に心に留めておくことが、ビジョンの達成にもつながるんです。 

 

オプトで働く人が会社に誇りを持てるように

ライター岡本:HRDCの活動はどのような結果につながってきているのでしょうか。

 

黒沢:毎年あるOJT制度のやり方を、2019年度の新入社員にはコンピテンシーに置き換えてもらいました。コンピテンシーの目標に対して進捗を追い、全体に共有していきました。その結果、マネジメント層からは新人の早期戦力化につながったという声が上がっています。各部署の現場社員からも「何をどう教えていいのかが明確になり、育成がしやすくなった」「OJT環境が整い、育成の効率化ができた」と声が上がっています。

新人教育からスタートして、一定の成果につながったと実感できました。今後、HRDCとしては育成の対象をミドルやトッププレイヤーに広げたり、プレイヤーのみならずマネジメント層の育成など対象を拡張させていきたいと考えています。 

 

ライター岡本:HR領域で活動してきて、黒沢さんが改めて感じているこの領域のやりがいはありますか?

 

黒沢:今後のことを考えると、育成の打ち手だけだと限界があります。人と組織をさらに成長させるためにHRDCの価値を採用や評価、人員配置などHR全般に広げていきたいですね。HR全体を俯瞰して、その上で「育成ではこういうことをやっていこう」と提案して取り組んでいきたいと思います。

オプトで働く人が、働き甲斐を感じていて、自分と、自分の会社や組織に誇りを持てる状態を作りたいですね。オプトの現状をみていると、そう感じている人もいれば、まだ自分や自分の組織の可能性を感じられていない人もいる。そういった理想にむけてできることがもっとあると思うし、HRの観点から変えていきたい。HRDCがその起点になりたいと思います。 

※記載されている所属・役職等はインタビュー当時のものです。