【デジタルホールディングス DE&I企画】オプト仙台オフィスが実践する「インクルーシブル・リーダーシップ」とは?~人の可能性を信じるマネジメントで、障がい者人材の成長意欲に応える~
新卒でサイバーエージェントに入社。東日本大震災をきっかけに復興支援を開始。2013年、一般社団法人防災ガールを立ち上げ、ソーシャルセクターで活躍。2020年に設立したSOLIT株式会社では、オール・インクルーシブファッションを提唱し、多様な人も地球環境も考慮された服づくりを行っている。
障がい者のメンバー9名を配下に抱え、日々それぞれの個性・特性に合わせたマネジメントを行う。
【Yさん】
2018年オプトへ入社。各社クライアントに提出するレポート集計やDE&Iのデータ集計、勤怠関連業務のほか、他メンバーの業務フォローを担当。
【Tさん】
2022年5月オプトへ入社の新人。現在は、株式会社デジタルシフトに所属。
取材当時は、転籍先となるデジタルシフト社に関する業務に関わりながら、トレーニングを行っていた。
グループのDE&Iを推進するにあたり、障がい者雇用促進と活躍推進の社内啓発から外部発信までをリード。
デジタルホールディングスグループは、10年前より仙台にて障がいをもつチャレンジドが活躍できるオフィスを設けています。
設立当初は、市場調査ツールを用いたルーティン業務を中心に担うオフィスでしたが、現在はコーポレート部門で行っていた管理業務や、お客様に提供する広告成果レポートの作成など、より幅広い業務に取り組んでいます。
そんな株式会社オプト・仙台サテライトオフィス(以下仙台オフィス)は、9名のチャレンジドが活躍する、デジタルホールディングスグループのDE&I精神を体現している組織です。多様性を重んじたコミュニケーションと、その人らしく働ける仕事の割り振りなど工夫を凝らしながら、誰もが意欲的に働ける環境を整えています。
今回は、仙台オフィスで働く3名に、自身の障がいと向き合いながら働くことと、それをサポートするマネジメント手法について語ってもらいました。障がいの有無に関わらず、一人ひとりの個性や特性を活かして活躍できるチームを作るためのエッセンスをご紹介します。さらには、その取り組みに対し、社会起業家 田中美咲さんの講評をいただきながら、デジタルホールディングスグループのダイバーシティ経営とエクイティへの挑戦に向けたヒントを探ります。
デジタルホールディングスグループにおいてDE&I(Diversity Equity & Inclusion)とは
従業員一人ひとりの多様性を受け入れ、誰もが活躍する機会を得られるよう固有のニーズに合わせて環境を整え、互いに認め合い、尊重し合い、活かし合うことで新しい価値を次々と生み出し、事業成長に繋がっている状態と捉えています。
「新しい価値創造を通じて産業変革を起こし、社会課題を解決する」というパーパスを掲げるデジタルホールディングスグループにとって、「多様性」こそ新しい価値創造の源泉であり、DE&Iの実現は重要な経営上の戦略のひとつであると考えています。
チャレンジドとは
「the challenged (挑戦という使命や課題、挑戦するチャンスや資格を与えられた人)」を語源とした、障がいを持つ方の呼称です。
「フォローの言葉が温かい」。仙台オフィスは安心して働ける場所
菅原:オプトに入社する前のお二人は、それぞれどんな暮らしをしていたのでしょうか。
Tさん:私はずっと療養生活をしていました。その後、就労移行支援に一年半ほど通ってリハビリやトレーニングをしていました。
Yさん:僕は2018年にオプトに入社したのですが、前職を辞めたのが2008年なので、丸々10年働いていないことになります。大学在学中に病気になり、卒業できないまま仙台に帰ってきました。その後すぐに就職したのですが、病気が治っているわけではないので、症状をこじらせてしまい、退職してしまいました。
ちょうど会社を辞めた後に姪が二人生まれたのですが、仕事をしていない期間はずっとその子たちのお世話をしていました。これが一つのリハビリにもなり、その後は就労移行支援に通って、いまに至ります。
菅原:Tさんがオプトに就職を決めた理由を聞かせていただけますか。
Tさん:私はとても緊張しやすく、そうなると肩が凝ってすぐ頭が痛くなるのですが、オプトの説明会と実習だけは、それらがまったく起こらなかったんです。上司と先輩方の人柄が良く、「もうこの会社しかない。入りたい。」と熱望して入社しました。
田中さん:オプトさんでは肩が凝らなかった理由は何だったんですか?
Tさん:フォローの言葉がとても温かいんですよね。今日もつまずいたところがあったんですが、「徐々に慣れていけばいいから」と、声をかけてもらいました。普段からポジティブな声掛けが多いので、自己肯定感が保てる職場だなと感じています。それを説明会や実習で感じ取ったのだと思います。
菅原:先ほどお仕事の様子を見ていたのですが、Yさんのフォローがとても丁寧ですよね。「何度でも聞いてね」みたいな声が聞こえてきて。とても素敵な環境ですよね。
Tさん:オプトはこれまで働いてきた会社のどこよりも挑戦させてくれる環境があり、私を受け入れてくれているので、そのぶん得意な仕事を見つけて役に立ちたいと思っています。
障がいと向き合う。葛藤を乗り越えたいま、思うこと
菅原:続いて、Yさんは障がい者手帳を取得することに大きな葛藤があったそうですね。
Yさん:今振り返ると、どうしてあんなに悩んでいたんだろうと思いますけどね。
病気になって15年目を迎えたとき、「このまま暮らしていても何も変わらないだろうから働いてみよう」と考える節目にもなり、手帳の取得につながりました。手帳があることを言い訳にしてしまうんじゃないか、と不安だったのかもしれません。障がいの特性でできないのか、単に苦手なだけなのかを分けておかないと自分がダメになりそう、という不安が大きかったですね。
菅原:いまはどうですか?
Yさん:取得するときに、しっかり線引きをしようと決めました。以来、自分は大丈夫なのかを問いかける機会を定期的に設け、気持ちを律しています。
菅原:Yさんは入社4年目ですが、この期間にどのような変化がありましたか?
Yさん:まずは体調が良くなりました。診断的にも障がいの程度が軽くなっていて、もともと受けていた福祉サービスもどんどん解除されています。
菅原:働くことで改善するというのは、とても喜ばしいことですね。
健常者と障がい者は、ある種のアイコン。人は誰でも濃淡あるグラデーションを持っている
菅原:お二人は、ご自身の持つ特性をどのように受け止めていますか?
Tさん:“生きていくうえでのハードル”です。だから、飛び越えられない場合は、くぐるか避けるかして生きやすくしていかなければ、と考えています。「できない」ではなく、「できないからこうしよう、ああしよう」を探していくものだと思っています。
Yさん:僕は、「健常者」「障がい者」というのを普段からあまり意識していません。自分より症状が重い人でも申請していなければ障がい者のカテゴリーには入らないですし、僕の手帳だって、しようと思えばいつでも返納できるんですよね。誰しも得意不得意があるんだし、特別ことではない。ただ、僕の場合はそれが社会生活上、障がいになりうるので、それを補うために手帳を取得した、と思っています。
菅原:ここで、田中さんは、障がいや身体・精神的な特徴をどのように捉えていらっしゃるのか、聞かせていただけますか。
田中:基本的にはグラデーションだと思っています。障がいの発現も、電車に乗ったらそうだけれど家では違ったり、特定の人に対してそうだったり、パーセンテージが違ったりします。つまり、常に症状の出ている障がいばかりではないんですよね。これはセクシャリティにもいえることです。100%男性、100%女性って実はいなくって、側面ごとにやはりグラデーションがあります。そう捉えたときに「健常者」「障がい者」という言葉は、分かりやすく伝える“アイコン”としてはよいのかもしれませんが、実際はこの言葉ではくくれないと考えています。
メンバー同士が互いを理解しあえるチーム運営を徹底
菅原:続いて佐藤さんに伺います。普段は、どのようなチーム運営をしているのでしょうか。
佐藤:仙台オフィスは、障がいの種類がバラバラなんですよね。いま、僕を含めて9名のチャレンジドが所属していますが、身体障がいの方がいれば、精神、知的障がいの方もいらっしゃいます。そのため、できることと、できないことの差が大きいので、お互いのできない部分をフォローしあえるような、そういう組織にしたいと思っています。
菅原:具体的にどのような取り組みをされているんですか?
佐藤:たとえば、指示書通りに業務を進めることが難しいメンバーであっても、エクセルの加工作業がクリアできれば業務が可能な人もいるので、そのために操作マニュアルをあらかじめ準備しておく、というようなサポートを積極的に行っています。
菅原:メンバー同士の相互理解を深める機会を設ける取り組みも始めようとしているんですよね。
佐藤:メンバーの発案で準備を進めています。新しいメンバーが入るから、というのもありますが、自分の特性や、配慮を必要としていること、または得意なことなどを全員で共有しておけばお互いに思いやり合えるし、コミュニケーションもスムーズにいくと思っています。
田中:佐藤さん一人だけでなく、メンバー同士がお互いを理解しようとしているところがすてきですよね。チームによっては、声の大きなリーダーがいないと成り立たないこともありますが、こちらは佐藤さんが一週間留守にしても業務が滞らないような体制が整いつつあるということですね。チームが属人的にならない状態にしておくことは、理想だと思います。
菅原:Tさんは、こうした取り組みが働きやすさを生み出していると実感したことはありますか?
Tさん:私は体調が天候に左右されるところがあり、どうしても起き上がれない日があったりするのですが、仙台オフィスでは一つの業務を2、3人でルーティンする体制を取っているので、「私が休んだら業務がストップしてしまう」といった罪悪感を持たずに休めます。こうした配慮が当たり前のようになされている点は有難いです。
Yさん:さっき、Tさんが「オプトだけは緊張しなかった」と話していましたが、僕もまったく同じで、それが入社の決め手でした。佐藤さんだったから、良かったのかもしれません。
佐藤さんからは、「やる時はちゃんとやるけれど、ここまでなら肩の力を抜いてよし」みたいな緩さを学ばせてもらっています。
菅原:佐藤さんの、肩肘張らない感じがいいんですね。ナチュラルな感じが出ていますよね。
Tさん:私は物事を悪いほうに考えてしまうところがあるんですが、佐藤さんはナチュラルに軌道修正してくれるから「クヨクヨしなくていいんだ」って、すぐに前を向くことができます。
菅原:佐藤さんは、仙台オフィスのメンバーと働くこと自体、偶発的なことだったと思うのですが、不安や葛藤は感じなかったんですか?
佐藤:正直、障がい者に対してポジティブなイメージは特に持っていなかったので、何も考えてこなかった人間が担当していいのかなっていう気持ちがありました。ただ、当時の上司と相談して決めたのは、「健常者」「障がい者」にとらわれず、ニュートラルでいよう、ということです。この考え方を基点に、いまにつながっているところはありますね。
菅原:佐藤さんの「ニュートラルでいよう」ということばは、一方的な配慮や思い込みをせずに、バイアスなく、個々人にまっすぐに向き合ってきたという理解をしています。
田中:仙台オフィスには、“本来、チームはこうあるべき”という理想像がありますよね。全社的に学ぶことは多いのではないでしょうか。
「頑張ればできること」を広げるマネジメントで、メンバーの可能性にアプローチ
菅原:改めて、佐藤さんがマネジメントにおいて心がけていることを聞かせてください。
佐藤:「できること」「できないこと」のあいだに、「頑張ればできること」っていうのがあって、その「頑張ればできること」をどこまでできるようにするのかを意識しています。この幅を広げることが仙台オフィスの認知度を上げることにつながると思うので、メンバーから「これはできません」って言われた時には、まず一緒に考えるようにしています。
菅原:「頑張ればできること」が広がることに、働きがいを感じていることが伝わってきます。これを拡張し続けるための佐藤さんのマネジメントがメンバーの幸せと直結しているとなると、とても重要ですよね。
佐藤:とはいえ、その見極めやアプローチは難しく、いまも手探りです。ただ、「まず、やってみようよ」っていうのは、確かにあるんですよね。やってみないことには分からないですし、たとえできなくとも他のメンバーがいるので、できる部分は一緒にやって、できない部分はできる人に任すことを繰り返すしかありません。そのときはできなくても、その後できるようになるかもしれないですしね。
菅原:佐藤さんは人の可能性を信じ続けていますよね。人間はバイアスの強い生き物だと思うんですが、佐藤さんには「人間は可変である」という考えが前提にあるのだろうと感じます。
田中:「頑張ればできること」という中間を明確に設けていることは、非常によいことですよね。従来の企業には「無理をさせればできること」を、実際、無理をさせて行わせている側面があると思っています。言葉が悪いのですが、これには強制労働的イメージが付きまといます。社員側にも「『できない』って言ったら評価が下がるんじゃないか」という不安があるのではないでしょうか。こうした働き方が日本にはまだまだ多いと思うのですが、その点、仙台オフィスに、できないことはできないと言えて、頑張ればできそうなことにチャレンジさせてもらえる環境が根付いていることは、とても健全ですし、理想の働き方の一つだと改めて思います。
人の多面性を理解し、自分たちの可能性を知るために
菅原:改めて、田中さんの目に仙台オフィスはどのように映っていますか?
田中:たとえば、外資系企業などはオフィスの設計や社内制度がインクルージョンな環境をつくっているところがあると思うのですが、仙台オフィスは形からではなくソフト面から、ということを感じました。
一般の企業だと、「できる人に見せなければ」と、どこか自分を装って無理するところがあると思うのですが、今日会った皆さんは自分の弱さも強さも知っているし、他の人が完璧じゃないことも知っているからこそ、交わされている会話がとても尊いと思いました。
菅原:田中さんの目指す、オール・インクルーシブルな社会の実現に向けて、企業や人は何ができるのでしょうか? そのうえで、デジタルホールディングスに期待したいことを聞かせてください。
田中:この記事を読むだけではなく、仙台オフィスに足を運んで学びを得るような取り組みをしてもよいと思います。そのなかで、他拠点の皆さんにそれぞれの多面性を理解すること、「自分たちはまだまだできる」という可能性を知っていただけるとうれしいです。
加えて、オプトさんは9人雇用されているだけでも素晴らしいのですが、就職したくてもできない障がい者はまだまだたくさんいます。日本は、そもそもの機会の少ない点が課題だと思っているので、デジタルホールディングス発で、企業として雇用を生み出し、組織として全員で協力し合える世界がもっと生まれるといいですよね。
佐藤:現在さらなる雇用拡大に向けて採用活動を行っています。当社のパーパスに共感いただいたり、YさんやTさんのように当社の環境で、働くことに対して前向きに向き合えそうだと感じた方がいらっしゃれば、ぜひお問い合わせいただけると嬉しいです!