誰もが持つ無意識のバイアスを自覚する
時岡:私が経営しているEAST MEET EASTは社員の1/3がLGBTQ+※2というダイバーシティのチームで、マイノリティに特化したユニークなビジネスを展開している点を評価いただき、2019年にForbesから表彰をいただきました。本当に国籍も、育ってきた国も異なる多様な人材から構成されています。若い世代は入社時に必ずダイバーシティの取り組みについてチェックするので、採用の面でもすでに効果が表れていると実感しています。人は誰しも無自覚のバイアスを持っていますが、多様性のある組織ではそういったバイアスが生まれにくくなります。ですので、先入観に囚われない健全な議論ができます。
野内:時岡さんは本当に進んでいますよね。グループ会社のベンチャーキャピタル「Bonds Investment Group」では今年の夏に、新しいパートナーとして女性外国人に就任してもらったんです。彼女からは「もう男性、女性とかジェンダーの話ではなくて、そもそも誰もがマイノリティなんです」と教えられました。現状の日本では女性外国人というだけで珍しがられますが、性別や国籍などに囚われずあらゆる人々を受け入れていかないと、これからの時代は立ち行かなくなると実感しています。我々の次の課題は女性CxOの誕生ですね。経営陣にはおじさん5人が並んでいるので(笑)、そこを打破していかないと。
金澤:時岡さんのお話で重要だと思ったのは、人間って誰しも無意識のバイアスを持っているということです。バイアスを自己認知して、どうやって向き合っていくかが大事だということに最近バイアスのテストをして気づきました。私は性別についてのバイアスは一切ないけれど、年齢におけるバイアスがあることがわかりました。
時岡:なるほど。
金澤:私の傾向として、年上の人に対してはその年齢に見合った仕事量を要求しがちらしいんです。バイアスのテストを受けるまでは、この傾向についてまったくの無意識でした。
時岡:アメリカだと年齢に触れるのは年齢差別になってしまいます。「年上なんだから、これくらいやってくれ」というのも駄目。若い世代を欲しがる会社もありますが、それも年齢差別なんですね。採用時に「○○代積極採用」といった文言は書かないでくださいと、他の会社でも口をすっぱくして伝えてます。
金澤:バイアスを持ってしまうことが悪いのではなくて、そこを自覚した上でどう向き合うかが非常に重要ですね。それぞれの考え方があるし、無意識のバイアスがあるからこそ、それを一掃するというよりも、バイアスを知ることから始めるのはやっぱり大切だなと。現場社員にもマネージャーにも向けて積極的に展開しています。
時岡:素晴らしい取り組みですね。
トップダウンではなく、自然発生的に広がる「多様性」と「包摂(ほうせつ)」
金澤:このバイアスのテストも社員からの提案なんです。弊社はまだまだインクルージョンの部分に課題があると考えています。インクルージョンからどうやって新しい価値創造につなげるのか、イノベーションにつなげるのか。正直、そこに手応えはまだ感じていません。
時岡:グローバルなインクルージョンもできるようになると、エンジニア採用に有利に働きますね。メルカリ社がインドから優秀なIT人材を採用しているように、強力な人材をスピーディに確保することができるようになります。
野内:インクルージョンはなかなか強制的にできるものではない気がしているので、自然発生的に醸成されるのが理想ですね。上から指示を出すこと自体が多様性を破壊してしまう可能性もある。強制ではなく、いかにして社員が活動しやすい環境をつくるか。私はあくまでも気長に自然体で構え、自走式の組織から女性のCxOなどが現れるのが理想型だと思っています。
時岡:お二人はダイバーシティに関しての確固たるビジョンがありますが、こういったディスカッションを普段しない社員の意識はいかがでしょうか? 会社として多様性を推進することで、そういった社員の意識はどのくらい変わっていくと考えていますか?
野内:この考え自体も社内ではマイノリティなので、浸透には時間がかかると思います。でも、必ず達成できると信じています。なぜなら、マイノリティがマジョリティになった瞬間に、マジョリティはマイノリティになるからです。いかにマイノリティをマジョリティにするか。そういう意味では、まだ目標達成には遠いですね。
金澤:私も野内さんと同じく、社員間で温度差があると感じています。特に現場で頑張っている社員たちは日々の目標を達成しようとするなかで、そこまで意識が回らないこともあるでしょう。グループの全社会議でアンケートを取ると、多いときには100件近くのコメントがあります。記名のアンケートにはすべて返信をしていますが、なかには辛辣な意見もあるし、私たちがメッセージを伝え切れてないと感じる意見もあります。
必要なのはやっぱり対話なんですね。こちらから一方的にメッセージを発し続けるだけではなくて、対話する機会をつくることが重要です。なぜそういったことを考えているのか? 対話によって理解が深まります。
時岡:そうですね。組織が大きい分、どうやって対話の流れをつくるかが大事ですね。
金澤:今、グループ会社のトップやチームマネージャー、部長クラスの人材に対してダイバーシティをより深く理解してもらうための研修を実施しています。ダイバーシティを理解して受け入れる視点を持てるかどうか。将来的には経営層だけでなく、社員たちが日常の会話でダイバーシティについての意見を交わすようになってくれれば理想ですね。そのためにまずはトップから実践して示していこうという段階です。
外部との交流が多様性の下地をつくる
時岡:EAST MEET EASTにはインドやパキスタンのエンジニアが在籍していますが、全員がアメリカのチームと一つのチームになってもらうべく、社内のイベントにも積極的に参加してもらっています。単なるアウトソースのスタッフとしてではなく、社員という形であらゆるイベントに参加して楽しんでもらいます。インド、パキスタンの南アジア人もアメリカ人も英語を話しますが、互いに文化がまったく異なるので、対話をすることで相互理解がすごく深まるんですよね。
金澤:うちの会社は仕事の特性上、一つの結論を出すためのミーティングはたくさんありますが、互いの価値観を知るための対話は非常に少なかったということに気づきました。対話を通じて互いの理解を深める機会をもっと増やしたいですね。そういったコミュニケーションはオンラインになると、さらに少なくなる可能性もありますから。
野内:社内だけで多様性の議論をするのではなく、外部との交流も大事です。どれだけ外部と接しているかによって、その人の許容度は変わってきます。まさに時岡さんがそうですし、経営陣でも積極的に外に出ていく人は多様性が高い傾向にあります。同質の組織にずっといると内部で上手く回ってしまうので、議論もあまり生まれない。でも、一旦外に出てみると世の中は大きく変化していて、このままではマズいことに気づくわけです。閉じたまま鎖国時代の日本のようになってしまうことを防ぐ。それがDE&I推進室の役割のひとつです。
金澤:副業を全面解禁したことで、社員が外部と接する機会はだいぶ増えましたよね。
野内:自立に向き合うという意味でも、自分がマーケットでどれだけ価値があるのかを見定めるという意味でも、副業解禁は効果があったと実感しています。グループが出資している企業に出向するケースも増えてきていて、出向した社員はデジタルホールディングスとはまったく異なる価値観を身につけて戻ってくるので多様性が増大します。そういった外部との接触を増やす活動についても会社として支援をしていきます。
時代の変革期を残り超えるためのダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの実現に向けて
金澤:では最後にお二人から、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンに関して、実現させたいことや目指す姿についてコメントをお願いします。
野内:繰り返しますが、私はパフォーマンスで多様性とか女性活躍とか謳っているのではありません。新しい価値を創造するというパーパスの実現には、多様性が絶対に欠かせないのです。DE&I推進室が先導して動かなくても、我々の発信をきっかけにしてあちこちで多様性についての活動が生まれてくる。そんな仕掛けづくりを大いに期待しています。結果として、デジタルホールディングスグループが多様性を受け入れられる組織になって、パーパスに一歩でも近づくことが目標です。
金澤:ありがとうございます。時岡さんからもお願いします。
時岡:日本は今、人口が急激に減っている社会です。 イーロン・マスクはツイッターで「日本はいずれ消滅する」と発言しましたが、本当に多様化していかないと世界の潮流から置いていかれることは十分にあり得ます。大きな変化を起こすためには、多少のネガティブな反応も発生するでしょう。まずはそこを乗り越え、多様性ある組織づくり実現のための第一歩として、女性初のCxO誕生を目指しましょう。今後の発展を非常に楽しみにしています。
金澤:ありがとうございます。多様性が当たり前という環境が実現できれば、それはグループの大きな強みにも特徴にもなるでしょう。社員も私に対しては意見をどんどんいってきてくれますし、立場に関係ないフラットなコミュニケーションの土壌ができていると感じます。パーパスを実現するためになにをするべきか、多くの社員が真剣に考えてくれています。その力を最大限に引き出すためには、トップのコミットメントが不可欠ということもあらためて実感しました。本日は素敵な機会をいただきましてありがとうございました、
野内、時岡:ありがとうございました。
※1:2021年3月設立時の名称は、「ダイバーシティ&インクルージョン推進室」。
エクイティとは、一人ひとりの固有のニーズに合わせてツールやリソースを調整し、誰もが成功する機会を得られるように組織的な障壁を取り除いていくことを指します。
インクルージョンとは、多様な人材が集まり、相互に理解・尊重・機能している状態を指します。
※2:LGBTQ+とは、L(レズビアン、女性同性愛者)、G(ゲイ、男性同性愛者)、B(バイセクシャル、両性愛者)、T(トランスジェンダー、体と心の性別が一致しない方)、Q(クエスチョニング/クィア、性自認を迷っている・分からない方)+(左記の4つに限らない性的マイノリティの方)の頭文字です。