創業40年を超えるアパレルブランドABAHOUSEと、Studio Optが挑む。これまでの慣習にとらわれない新たな商品開発とは

顧客のニーズが多様化している現代、モノづくりの手法も変化を迎えています。顧客の潜在ニーズを捉え、販売前の段階から顧客と関わりを作りながら進めていく。そんなアプローチが生まれてきています。

1社のみで従来とは異なるアプローチを新たに始めるのはハードルが高い。ですが、強みを持ち寄ったコラボレーションであれば、時代の変化に適応しながらプロジェクトを進められる。アパレルブランド「ABAHOUSE」と、デザインイノベーションファーム「Studio Opt」が共同開発した「IT-JACKET」プロジェクトは、そんな事例です。

今回はプロジェクトを牽引しているABAHOUSE INTERNATIONAL Co.マーケティング部部長 齋藤玲緒奈さんとStudio Opt 野口陽介さんにIT-JACKET開発のプロセスを伺いました。
 

 

これまでの慣習にとらわれない、マーケットイン型商品開発への挑戦


ライター岡本:IT-JACKET、クラウドファンディングですごい反響ですね!

齋藤:ありがとうございます。IT-JACKETは、多様なガジェットを仕事で使うビジネスパーソンに向けて開発しました。先行予約を兼ねたクラウドファンディングでは、開始から約1ヶ月で目標金額の15倍の支援額を達成できました。 


ライター岡本:大きな反響を呼んだこのプロジェクトは、どのような経緯で立ち上がったのですか?

齋藤:ABAHOUSEとして、新しい商品開発手法に挑戦しよう考えたのが発端です。これまでの弊社の商品開発方法だけでは、時代の変化に適応できなくなる、そんな危機感を持っていました。 

ライター岡本:これまではどのように商品開発を行っていたのでしょうか?

齋藤:デザイナーが良いと考える商品を制作販売する、いわゆるプロダクトアウト型の商品開発を行なっていました。ブランド側がトレンドを生み出し、それを消費者側が受け入れる。デザイナーズブランド的な商品開発手法です。 

ライター岡本:その手法では課題が生じた、と。

齋藤:はい。消費者の好みが多様化し、それぞれの価値観に沿って商品を選ぶ傾向が強まりました。その結果、ブランド側が一方的にトレンドを押し付ける商品の売行は低迷しつつあります。マーケットが変化に対応するべく、商品開発の方法を変える必要がありました。そこでスタートしたのが、プロダクトアウトではなく、マーケットインで商品開発を進めるプロジェクトです。 

 

ABAHOUSE INTERNATIONAL Co. 齋藤玲緒奈さん

 

生の声を聞きながら商品開発を進めたい

ライター岡本:マーケットインで商品を作ろうと始まったプロジェクトが、「IT-JACKET」のコンセプトになるまでにはどんなプロセスがあったのでしょうか?

齋藤:お客様から「平日に着る仕事着が欲しい」と声をいただいていたことがきっかけですね。これまでABAHOUSEの商品は、週末のプライベート用がメインでした。平日のビジネス用の商品を開発できないか?と考えていたんです。
とはいえ、今ではスーツも仕事着のスタンダードではなくなってきています。従来通りのスーツを拡充するだけでは、他社の商品と変わりません。ABAHOUSEの理念「時代性を的確に感じ、トレンドセッターとしての役割を担う」に基づいた商品を提案しよう、そう考えた時に思い浮かんだのが、複数のガジェットを仕事で活用するビジネスパーソンを対象にしたセットアップでした。 

ライター岡本:着想の時点で想定顧客は決まっていたんですね。

齋藤:そうなんです。ただ、着想はしたものの想定している顧客は、これまでのABAHOUSEの顧客層とは異なっていました。つながりがないため、直接声を聞くのも難しい。そこで、想定顧客層が働く企業と協業し、生の声を聞きながら商品開発を進めようと考えました。 

ライター岡本:それでパートナーにStudio Optが選ばれたんですね。想定顧客層が働く企業は他にもありそうですが、Studio Optを選んだ理由はなんだったのでしょうか?

齋藤:Studio Optさんは、デジタルとアナログの領域を横断しながら、顧客の声に耳を傾けてマーケティングを行なっているイメージがありました。会社として、色々なつながりがあったこともあって、お声がけしたのです。顧客ニーズの調査やマーケティングをStudio Optさんにお任せし、我々はモノづくりの部分を担う。そうすれば、商品開発からマーケティングまで一貫して想定顧客の視点を大切にできると考えました。 

ライター岡本:野口さんはABAHOUSEさんからご相談をいただいたとき、どう思いましたか?

野口:すぐに「やります」とお返事しました。共に商品開発を行い、プロモーションまで一貫して担う。Studio Optが理想とするプロジェクトの形だと思いましたね。    不確実性の高い今の時代、クライアントの事業成長をサポートするには、プロモーションの代理だけでは不十分になりつつあります。Studio Optは、クライアントと一緒に新たな価値を創造できる組織でありたいと考えて組成されたので、このプロジェクトはまさに私たちがやるべき仕事だと思いました。 

 

潜在ニーズを引き出すポイントは、メンバー間の情報量の差

ライター岡本:顧客ニーズの調査はどのように行ったのでしょう?


野口:Studio Optの社員が想定顧客だったので、5~6名を集めて座談会を開催しました。2ヶ月の間、2週間に1回のペースで「どんなスーツが欲しいか」をテーマに意見を出してもらいました。 

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Studio Opt 野口陽介さん

ライター岡本:ユーザーインタビューやアンケートではなく、座談会だったのにはなにか理由が?

野口:個別にヒアリングをしても具体的な意見が出にくい場合があります。アンケートも、率直な意見をもらえるとは限りません。座談会のように複数名が集まって話していれば、他の参加者の意見を聞きながら、自分自身が気づいていない視点を発見し、気づきを言語化してもらいやすくなります。そこから潜在ニーズが見つけられると考えました。 

ライター岡本:調査方法の中でも、顧客の潜在ニーズを引き出しやすい方法が座談会ということですね。座談会でうまく潜在ニーズを発見できたのは、何がポイントだったのでしょうか?

野口:座談会参加者のファッションリテラシーに違いがあったことは、ポイントになったと考えています。ファッションについての情報量が異なる人が組み合わさったことで前提の違いが浮き彫りになり、それぞれが当たり前と考えていることを言語化しやすい環境になっていたんです。 

ライター岡本:「当たり前」が違うと、色々発見がしやすいんですね。座談会では、どのような意見がでたのでしょう?

野口:「座ってパソコン作業をすると窮屈に感じる」「スーツだと、私用・社用携帯、ポケットWi-FiなどのITガジェットを持ち運びづらい」「脱いだ時に折りたたむとシワになってしまう」といった意見が出てきました。 

齋藤:座談会で参加者のみなさんから出た意見を参考にして、具体的な形に落とし込み、完成したのが、IT-JACKETなんです。 

ライター岡本:形にしていく上で、様々なニーズが反映されているんですよね。

齋藤:IT-JACKETは、私用・社用スマートフォン、名刺、カードキーといった小物を持ち歩きやすいマルチポケット設計になっています。袋布を斜めに設計し、小物を取り出しやすくしつつも、小物が落ちないようにファスナー付きのポケットもつけるなど工夫をこらしました。
また、持ち運びが楽になるパッカブル仕様になっていて、折りたたんでもシワにならない素材を使用しています。コードをフロントボタンにつけることで肩に斜めがけにもできるようになっているんです。従来のスーツづくりではなかった視点を、実際の形に落とし込んでいます。
反映したい機能は他にもあったのですが、座談会で「3万円以上だったら買わない」という声が挙がっていて。想定顧客のイメージする価格帯が守れるように、商品に反映する機能を取捨選択して、デザインするのに苦労しましたね。 

 

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洗濯後もノーアイロンで済む防シワ加工

 

想定顧客が求める機能を取り入れたジャケット

 

着ていない間も利便性が高まるように工夫されている

 

クラウドファンディングとプロフィール写真撮影会。新たなマーケティング施策への取り組み

ライター岡本:IT-JACKETは、店頭販売に先駆けて、クラウドファンディングを実施されています。クラウドファンディングは最初から実施する予定だったのでしょうか?

齋藤:プロジェクトが始まった頃は予定していませんでした。野口さんから提案いただいて、それで実施しようと。 

野口:IT-JACKETは、小さく始まったプロジェクトで予算が限られていました。これまで通りのマーケティングを行っても、想定顧客層に情報が届けられない。そこでクラウドファンディングを提案しました。
利用したクラウドファンディングサイトは「Makuake」です。同サイトは、ITガジェットが好きな方々から人気が高い。IT-JACKETを届けたい顧客層と重なるため、情報発信の場所として最適だと考えました。
また、クラウドファンディングによって生まれる参加意識にも着目しました。ただの「購入」ではなく「支援者」になることで、商品やサービスとの関係がより深いものになると考えています。大手ファッションブランドがクラウドファンディングを実施している例はこれまであまりなかったのですが、だからこそ挑戦してもいいんじゃないか、という話になりました。 
 

 

ライター岡本:クラウドファンディングを使って、想定顧客に情報を届けるだけでなく、支援という関わりを作り、言及してもらいやすいような設計だったんですね。

野口:SNSを絡めたプロモーションで工夫したのは、試着会です。ファッションアイテムであれば、試着会はするだろうと考えると思いますが、もちろんただ試着会を開催したわけではありません。来場者の方々にIT-JACKETを着ていただき、SNSアイコン用のプロフィール写真を撮れるようにしたんです。
事前に社内メンバーから「SNSのアイコン用の写真が欲しいけれど、いいものがない」と聞いていたんです。想定顧客層に近いメンバーが言うのであれば、試着会に来てくださる方にも近しいニーズがあると考えました。試着会に合わせて撮影会を実施し、プロフィール写真のデータをお渡しすることで、参加者のSNSアカウントでIT-JACKETについて発信してもらいやすい環境を設計しました。 

齋藤:これまで弊社はファッション関係の雑誌やメディアを通したマーケティングを行っていました。今回、Studio Optさんにマーケティングを相談したことで、これまで掲載実績がなかったITガジェット系メディアにも取り上げてもらえたんです。 
 

先行予約開始からわずか1ヶ月で、予想の15倍の売上。新たな挑戦の手応えとは

ライター岡本:クラウドファンディングで先行予約を始めてから約1ヶ月。すでに目標金額を1500%超えています。この反響は予想通りでしたか?


野口:予想以上の反応ですね。実験的なプロジェクトと位置付けていたこともあり、当初は店頭販売も含めて「200着程度売れたらいいね」と話していたんです。それが先行販売開始から1ヶ月も経たないうちに、その目標を超えました。驚きと共に、とても嬉しく感じています。 

齋藤:実際にIT業界で働いている方から「こういうスーツが欲しかった」「作業がしやすく、デザイン性も高い物を探していた」といった声もいただいて。想定顧客に届けられただけではなく、コンセプトにしっかり共感してもらい、注文にもつなげられている。手応えを感じています。社内としてもここ数年で最も評価の高いプロジェクトとなりました。 

ライター岡本:ニーズの深掘りから、想定顧客に届くまでの設計を一貫して行ったからこその成果なのかもしれませんね。プロジェクトを振り返って、顧客ニーズに応える商品を作るために大切だと思うことを教えてください。

齋藤:まだプロジェクト自体は続いていくので、すべてを踏まえて振り返りできるわけではありません。あえて、述べるとしたら、ユーザーが気づいていないニーズをいかに言語化できるかが鍵だと思います。今回は、商品の想定顧客層が働くStudio Optさんと協業することで、生の声から言語化できました。ニーズを把握するために「誰と一緒に作るのか」を考えてみる視点は大切だと思います。 

野口:今回は、ABAHOUSEさんと、受発注の関係を超えたパートナーシップを築けたことで、成果につながった感覚がありますね。 

齋藤:たしかに、同じ目標の達成に向けて、対等な立場から意見を出し合えたと感じています。良質なチームから生まれる商品の質は自然と高まり、結果として顧客に受け入れられる商品につながっていくのではないでしょうか。 

 

 

※記載されている所属・役職等はインタビュー当時のものです。